HISTORY & STORY

5.21.1991

笠ケ岳と抜戸岳周辺

DESCENT AT MT.NUKETO AND KASA

北ア 笠ケ岳と抜戸岳周辺の沢をスキー滑降
田村 和彦、土田 次夫 他 (RSSA同人)古田 徹司 西田 真一(きねずか同人)原 伸也(ビル エバンス同人)
nuketo pict
 
笠ケ岳も他の山と同様で例年に比べて雪の量は少ないが、                                    
日本海からの風が直接あたるため笠ケ岳周辺は充分に雪がある。                                      
新緑、酒、星、友達、露天風呂そして標高差の大きいスキー滑降など、                                        
きわめて快適な2週連続の山行を楽しめた。                                                                                
笠ケ岳笠沢(初滑降かも?)と穴毛谷4ノ沢左俣Aルンゼ滑降(第2滑降)                                    
                                        
5月21日                                      
笠ケ岳周辺を熟知してるRSSA同人の15名と一緒に新穂高温泉を出発。                                    
奥深くひと味違った雰囲気のある笠ケ岳穴毛谷本谷を登ってる最中、                                  
豪快な岩峰群に囲まれた4ノ沢を登ってる土田氏を見つける。                                        
どこを狙うのか予備知識が全くて地図で確認してみると、                                    
4ノ沢左俣Aルンゼのようだ。                                    
地図の等高線ではなんとか滑降できそうな気がする。                                        
あわてて計画変更し一人で後を追う。                                      
一緒に神戸から来た田村氏は自分勝手な行動にあきれた顔をしている。                                        
両岸が切り立つルンゼ中間部で追いつく。                                  
アイゼンを持っている原は、                                      
最後の手強い巨大な雪庇をへばりつきながら登りきる。                                      
夏道を登り、深い静けさのある頂上着。我々2人にとっては初めての頂。                                      
なかなか高度感あふれる展望に感心。                                      
鋭い切れ込みの険しい谷間には、                                  
予想もつかぬ雪の量の雪渓がいくつもあり、今後の課題として面白そうだ。                                    
他のメンバーは全員抜戸岳に集合し、これから杓子平経由で穴毛谷を滑降すると
                                        
の無線が入る。                                  
土田氏は6ノ沢を滑降。                                  
主稜線の下降地点で6ノ沢か5ノ沢か分からず悩んだとのこと。                                      
途中の核心部の滝は20M程巻いて本谷へ滑り込む。                                        
原は笠ケ岳の頂上の30M下の尾根から滑降開始。
頂を背に滑る姿を抜戸岳パーティーは全員が見てたとのこと。                                        
2780M地点から緩やかな景色が展開する西面の笠沢を下る。                                      
急斜面だが岩石がほとんどなく、パラレルが快調。                                  
2ヶ所滝が露出し、下部の滝だけ5mスキーを脱いで下降。                                  
滝のでっぱりに、7本ぐらいシュリンゲが絡んでた。                                        
稜線に戻るわずかな170Mの登りは、遅々として足が進まない。                                    
短時間で高度をかせぎすぎたせだ。                                        
クライマックスのAルンゼの滑り出しは、僕の実力ではどうかな                                      
と思わせるような急斜面。                                        
地図上の傾斜よりきつく感じるのは大きくかぶる雪庇のせいだ。                                      
滑り始めるまでの3分間どうしようか悩んだ。                                     
 心も体もカラッポになり、「エイ」と10Mも下ればあとは狭いが楽な斜面。
                                        
ターンする度に雪が崩れる。                                      
滑降したい細い沢の中央をずるずると流れ、それが下部まで落ちるのを                                        
待っているだけでイライラする。                                  
ときどき落石の大音響が四方からこだまする。                                      
左手の剛鉄のような第一岩稜が、垂直に立ちすばらしい。                                    
見上げると、Bルンゼもやれそうな気がする。                                      
1300M地点で雪が無くなり板をザックにつける。                                        
滑降総標高差1650Mの達成感で放心状態。                                      
1日でこれだけ山を滑るのも久しぶりだった。                                     
 新平湯温泉でRSSA同人の山スキー祭りに飛び込みで参加。                                        
30名の会員や飛騨山岳会の島田靖さんが来られていて、                                    
楽しい山スキーに関する談笑の時を過ごした。                                                                              
                                        
抜戸岳頂上から穴毛谷本谷滑降                                    
                                        
5月22日                                      
快晴の中を田村氏の案内で抜戸岳登頂。                                    
前日滑ったルンゼは本当に垂直に見えた                                    
登高はつらかったが、あとはスキーで往路を下るのみ。                                      
頂上から杓子平周辺は白い広大なカール状斜面で山上の山スキーの楽園。                                      
こんなによい場所ならもっと昔から注目しとけばよかった。                                  
途中にある穴毛大滝(弓折ノ滝)は神秘的で雄大な姿。                                      
ウエストンは2回の地元の非協力から登れなかった後、                                      
この素晴らしいルートを経由して登頂したのだろう。                                        
滑降標高差1410M。                                  
笠ケ岳周辺では、                                        
景色の変化も充分に楽しめる最もポプュラーなコースと思えた。                                      
                                        
                                        
抜戸岳東面無名沢初滑降                                  
                                        
5月23日                                      
昨日の抜戸岳から東面の斜面を観察した時、                                        
各沢は急な傾斜だが滑れるだけの充分な雪がついてる。                                      
地図からは、                                    
下抜戸沢と抜戸岳南尾根の間にある無名沢が一番よさそうに見える。                                  
蒲田左俣林道を歩き、その沢を見上げると、                                       
 思ったより雪の量が多そうな気配がする沢だ。                                     
  沢の水流で切れてるが、                                  
対岸まで沢から押し出された大量の雪が埋まってる。                                        
2人で思わずニヤリと笑う。                                      
しかしすぐに20M登った所で3M雪が切れている                                 
 大きく右に屈曲した部分でも20M間は雪がない。                                
   雪崩の方向が本筋を下らず、小さな尾根に向かうためのようだ。                                      
広大でどこも滑れそうな穏やかな斜面が現れる。                                    
「カッコー」だの「ホーホキキョ」と何種類もの鳥が心地よく鳴いている。                                    
さっそくビールで乾杯してしまった。                                      
稜線にて休憩後雪庇のない部分から滑りだす。                                     
 田村氏も快適にニコニコ顔でどんどん滑って行く。                                 
  原は、調子にのってスピード感に酔いしれてる最中                                 
   雪に隠れた30CM大の石にスキーが衝突し、空中で体が1回転。                                    
石は100M程落ちたが、体は5Mで停止してくれた。                                      
最後の2回のスキー脱着がなければ最高のルートだ。                                        
穴毛谷本谷の下部の雪面のデコボコを思えばなんともない。                                  
ブルーの渓水の端まで滑り込む。                                  
滑降標高差1160M。                                  
例年より極めて雪が少ないことから、途中の雪が切れてた部分は                                      
いつもは雪に覆われてると思われる。                                      
                                        
大ノマ谷滑降                                    
                                        
5月28日                                      
きねずか同人の古田 西田の両氏が、双六小屋周辺を「無茶苦茶に滑るぞ」                                    
との大胆な発言に賛同。                                  
長い林道歩きから小池新道のカール状の雪面を上りきり、                                    
主稜線の大ノマ乗越からトラバースするつもりだったのに                                    
雪が斜面に全くなく、全員「こりゃなんだ」。                                      
「しょうがねーなー」と来た道をスキーで滑降                                     
 栃尾の無料露天風呂までの時間は充分あったが、                                    
 あまりに新緑が美しすぎて、橋のたもとでツエルトをはる。                                  
夜は大きな静けさの中 素晴らしい星空が何倍も心を癒してくれる。                                  
日本の山の良さを凝縮したような山だ。                                    
滑降標高差900M。                                    
                                        
抜戸岳奥抜戸沢初滑降と秩父沢テレマーク滑降                                                                              
5月29日                                      
テント周辺で雪のある斜面は限られ、                                      
テレマークスキーの2人は比較的傾斜の緩い秩父沢へ。                                      
原は奥抜戸沢を目指す。                                  
真っ青な空色の下、奥抜戸沢上部の急斜面は雪が堅く蹴り込みに時間がかかる。
                                        
アイゼンを車の中に置いてきたのを悔やむ。                                                                                
抜戸岳頂上から下50Mの稜線に出る。                                    
12時50分稜線3M下からスキーを着ける。                                      
40M下までシュルントが連続し、危険な部分は横滑りで通過。                                      
どの稜線からの滑降でも最初の原頭部が一番神経を使う。                                    
先週の4ノ沢の最上部の地形によく似ており、左手には岩がそそり立つが                                      
それほど思ったより悪い狭い斜面ではなかった。                                   

 下部の石コロ散乱地帯での格闘滑降並びに                                  
左側のガレ場から押し出された巨岩堆積地帯の通過は苦労する。                                      
大休止し、余ったウイスキーによる解放感が心地よい。                                      
足どり軽く新穂高の駐車場に、4時30分着。                                     
 滑降標高差1180M。                                  
                                        
                                        
当初、穴毛谷4ノ沢左俣Aルンゼは初滑降と考えていた。                                    
後ほど飛騨山岳会の瀬木  島田氏らに問い合わせたところ、                                  
1987年5月11日飛騨山岳会の杉本、岩崎の両名により                                  
三の沢を登り、滑られていた。                                    
その記録によると、                                      
「ルンゼ中間部で、2人とも30から40Mくらい滑落。」                                  
Aルンゼの最上部の滑り出しの写真があり、                                       
 原が滑降した時よりかなり雪が多い時のように思えた。                                      
いずれにしても、大きな雪庇をどう処理するかがポイントのようだ。                                  
4ノ沢左俣初滑降の記録。                                        
                                        
また抜戸岳東面の2コース(奥抜戸沢と無名沢)は、                                        
滑られた記録はまだ聞いたことがないとのことであった。                                    
なお秩父沢周辺は飛騨山岳会の瀬木氏によって行われてる。                                  
                                        
2500M以上の山からの急斜面滑降の最適な時期は、                                      
やはり5月の連休を過ぎてからだと思う。                                  
僕の友人達も連休を過ぎればスキーをしまってしまう。                                      
滑降主体の山スキーヤーだったら本当にもったいない気がする。                                      
今回の笠ケ岳周辺は、頂や稜線までのアプローチが新穂高温泉から短く、                                      
日帰り山スキー滑降に最適な中上級者向けのパラダイスと思う。                                      
                                        
                                        
(参考資料)                                    
1)「北ア笠ケ岳穴毛谷4ノ沢右俣登高  4ノ沢左俣Aルンゼ下降」                                  
飛騨山岳会  瀬木他3名                                  
1981年6月7日                                      
4ノ沢左俣Aルンゼ初滑降の記録。                                        
                                        
2)「北ア笠ケ岳穴毛谷4ノ沢左俣登高 5ノ沢下降」                                       
松坂山岳会  田中他4名                                  
1981年5月1日                                      
Cルンゼを登り、稜線から右俣ルンゼの滑降を試すが、5ノ沢へ転進。                                        
カールを滑り、途中からクライミングダウン。                                      
5ノ沢初滑降の記録と思われる。(原記す)                                                                                
3)「北ア抜戸岳境界尾根登高 東尾根(仮称)滑降」                                       
飛騨山岳会  瀬木他1名                                  
1987年3月30日                                    
北ア抜戸岳東尾根(仮称)滑降は初滑降。(原記す)                                        
                                        
                                        
4)「北ア笠ケ岳穴毛谷本谷、6ノ沢右俣、7の沢滑降」                                    
飯田氏らが3年間で穴毛谷6ノ沢右俣,本谷を滑降                                  
RSSA同人の「ベルグシーローファー20号」より                                        
                                        
4)RSSA同人の牧野氏が単独で今年の5月連休時                                        
打込谷等(初滑降の記録もある?)を滑降の連絡を受けた 

5.11.1991

霞沢岳・八右衛門沢と霞沢初滑降

霞沢岳・八右衛門沢と霞沢初滑降
原 伸也(ビルエバンス同人)単独
 
 
霞沢岳は上高地の近くにあり、ごく限られた場所からしかその姿を見ることがで
きないことから登る人は極まれな山である。
数年前からこの山の沢の滑降の可能性を探って何回か夏に偵察山行をしてきた
が、なんとか行えそうという淡い気持ちを抱きながらトライしてみた。

八右衛門沢滑降
5月11日
上高地を8時30分発。
八右衛門沢下部1670m地点に大堰堤があり、そこから雪が続きアイゼンをつ
けて、少しクラスト気味の急斜面を落石に注意して登る。
静かな山頂に12時到着。
ここはいつも人がいなくて穂高の展望よくての素晴らしい場所だ。
13時八右衛門沢のの最上部2600mから滑降開始。滑り出しは急だが意外と
雪面の状態が良くて滑りやすい。ジャンプウウェーデルンが気持ちよく決まる。
中間部は両側ともかなり狭く、両岩壁からの小石が散乱して慎重に下る。
数分間小雪がぱらつく。
カモシカの姿も見えて楽しい。
三本槍沢との合流地点の手前に巨岩が横たわっていて雪が少しとぎれる。
巨大な堰堤まで石の少ない場所を選びながら左側を主に滑る。
滑降標高差930m。
上高地に14時10分着。
連休からその後の1週間ぐらいが 滑降に適した時期と思う。

霞沢初滑降
5月16日
登路は先週と同じ八右衛門沢。
車の中で寝過ぎて10時発となってしまった。
雪もだいぶ溶けて数カ所水流が現れていた。
頂上には登らず、先週の滑降地点と同じ場所から霞沢を滑降することにした。
大雪庇が霞沢側に張り出している。
重いザックをエンヤコラと落下させたあと細い木にザイルをつけて雪を崩しなが
ら雪庇の下でスキーをつける。
14時。
滑り始めは特に急な斜面のため、非常に緊張。
ジャンプターンでチェックをしながら下る。
ザックは100mほど下にあり、再び転ばせてそのあとを滑る。
ともかく変な場所に停止しなかったことに感謝。
。
2000m地点で部分的に雪がとぎれ、左側の雪面まで草地を5mほどスキーを
つけたままソロリと歩く。
この周辺はサルの集団やカモシカが多い。
しかもあまり人をおそれていないようすだった。
50匹のサルは霞沢の下部から夏を目指して大移動中だった。
よく見てると沢を横断するときに必ず 両岸には見張りが立っていて、なかなか
の組織ぶりに驚く。デコボコの雪に苦労しながら下ると水流が出てきて、160
0m地点でスキー終了。
ッツエルト泊。

5月17日
5時発。
小雨が降る中の沢のゴルジュ通過は難しく、300mの高巻きが2回もあった。
11時に沢渡着。
上高地行きのバスを待ってる時に女性のバスガイドがどこ滑ってきたの?って不
思議な顔して
聞いてきた。
どうやらかなりこの北アルプスについて知ってるみたいで、「霞沢滑ったなんて
記録聞いたことないわ」と驚いていた。そのあとのビールは最高に旨かった。


写真説明
西穂高から見る霞沢岳 中央に見えるのが霞沢

5.03.1991

DESCENT AT ANAGE,MT.KASA

西田 真一 (きねずか同人) 原 伸也 (ビル エバンス同人)
ANAGE PICT
 
穴毛谷周辺の沢には まだ紹介されてない幾つかの滑降コースがあり
槍見温泉の無料混浴露天風呂をベースに 日帰りで4日間
のスキー滑降をショートスキーで楽しむ。

5月3日(快晴)穴毛谷一の沢滑降
穴毛谷としては 新穂高温泉から一番近いことや
積雪期の記録を見た事がない 穴毛谷一の沢へ向かう。
一の沢出合の1341M地点で2パーティーがテントを張っていた。
1260M地点から雪を踏みしめて登る。
単調な登りでも 周囲の岩壁の風景が飽きさせない。
1840M地点の大きな左側の支流は広サコ尾根に伸びる。
地図上ではかなりの急斜面に見えるが 下から見上げると大した斜度でもなく
雪庇もなく 笠岳主稜線縦走路の残雪期における
エスケープルートとして 又はクリヤの頭方面
からの帰路における最短スキー滑降ルートとしても使用できそうだ。
本流は右側へ大きく屈曲し 傾斜を増してクリヤノ頭へ直上してる。
無雪期にはここから 15Mの滝を筆頭に大小6つの滝があるらしいが
岩壁から落ちた雪で全て覆われてるためか 水音はない。
途中2150M地点から広サコ尾根側へ回り込み クリヤ谷の縦走路へ合流。
春日井山岳会のスノーボードなどを持つ3人パーティーと出会い
この 山域で出会う人は希だ。
山談義に花が咲き 様々な情報が得られた。
クリヤノ頭(2440M)に14時着。
時間に余裕があり そこから笠谷右俣A沢へ 約250M程滑降。
穴毛谷と違いデブリがなくて 滑り易い。
右俣B沢より格段に樹木の数が少なく また広大な明るい斜面だった。
小尾根を乗り越して クリヤノ頭に引き返す。
頂には雪がなく 10M下降してからスキーを着けて滑降。
最初はかなりの急斜面で 慎重に下ると 後は部分的にシュルントがあるだけ
の 第一尾根と広サコ尾根に挟まれた谷筋の滑降。
そのまま 穴毛谷本流に合流して終了。滑降標高差1180M。

5月4日(快晴)抜戸岳南尾根・岩小舎沢滑降
巨大なデブリの目立つ蒲田川左俣谷から岩小舎沢を登りつめる。
上部にカモシカを見かけ 
キノコ雪をいくつかつけた2421M峰東南壁が右手に大きく見える
南尾根のコル8に13時着。
穴毛谷側を見ると スッパリと切れ落ちている。
3年前の難しい滑りだった穴毛谷四の沢左俣Aルンゼが大きく見えてなつかし
い。
標高は低いが 高度感がすごい。
デブリや落石なども少なく 広大な斜面で気持ち良く滑れる。
抜戸岳南尾根の沢の中では 最も容易で明るい雰囲気の
気持ち良い沢であり 穴毛谷の概要をつかむのにも好適なルートと思う。

5月5日(雨)
小雨が切れ 風呂に入ってばかりもしていられない。
穴毛谷本谷に向かう。
堰堤の多さが いささか気になるのは 登山者のワガママであろうか?。
三の沢の出合から 雨が降り出し 霧が深くなる。
毎回の快晴のせいで いつもの癖のツェルト携帯をこの時ばかりは
忘れてしまった。
雨具を着たまま 3時間立ち尽くし
たがついに やむことなく そのまま滑降して下山。

5月6日(晴れ)穴毛谷無名沢滑降
初日の 一の沢から見た抜戸岳南尾根から穴毛谷側にある白い沢筋が印象に残り
地図で確認すると2248M地点から滑れそうだ。
三の沢の出合から南尾根側への無名沢を登る。
昨日の雨と寒さにより 斜面が氷化し 久しぶりのアイゼン装着。
うっすらと新雪が積もり その下はガチガチの氷だ。
どうやら 雨の後に新雪が降ったようだ。
中間部の巨岩で休憩中 直径30CM大の雪塊が頭に直撃しそうになったが
運良く事前に発見して 無事。
直上すれば穴毛槍手前のコル6につくが、ある程度登れて滑れそうなので
左側の狭くてシュルントの多い不安定な凍った斜面を
ルートを探しながら無理矢理登る。

三の沢上部の雪崩が何度となくこだまする。
地図上の2248M地点に13時30分着。
南尾根上の他の滑降適地を偵察。

P7(2248M)の手前から
2日前に滑った岩小舎沢側にかすかな可能性を見つける。
しかし最初の滑り出しは50度はある急斜面のために 将来の課題とし
登ってきたルートを滑降することにした。
好天による雪の溶けるのを待つ間に 断崖絶壁の景色を充分に堪能する。

なだらかな丘状の斜面をゆっくりと滑った後は わずか100Mと短いが
大きくていやなシュルントが連続する 急なバーンだ。
足下が崩れればそのまま落ちるしかない。
微妙なバランスを要求され油汗をかきながらなんとか緩い斜面にたどりつく。
今年の大雪の年で この少ない雪の付着であることを考えると
普段の年の滑降は かなり困難な部分と思われた。
後は白い広大な斜面を 直線的なウェーデルンで滑走。

日帰りの行程で 素晴らしい絶景とかなりの急斜面を楽しめ
さまざまな可能性を秘めた山域は 日本ではこの笠岳周辺
が一番と思う。



(付記)
上記の 各滑降コースについては 今まで雑誌や本では 発表されてない。
1)岩小舎沢については 飛騨山岳会の瀬木氏らが滑ってるが
発表されてない。
2)1ノ沢滑降は積雪期における 下降路として使用されてる。
スキーの使用は 多分されてるであろうと想像するが
クリヤノ頭からの本流は滑られてないと思う。
3)穴毛谷の無名沢は 沢の中間部から滑られてるかもしれないが
今年度の豊富な雪でも 尾根直下には難しいシュルントだらけであった事から
初滑降と思われる。


参考文献
日本登山大系・「槍ケ岳・穂高岳」
笠岳の岩場と沢 飛騨山岳会

5.02.1991

蝶岳東面頂上初滑降

北ア・蝶岳東面頂上直下スキー初滑降 単独

NOBEER
 pict
 
蝶岳東面頂上直下には2つの急な沢があり、まだ滑られた記録を見たことがな
い。                                                            
連休の初めの頃は低気圧の通過により、ひどい悪天気。                                                              
5月2日に吹雪の常念岳に登頂し、周囲の沢の状況を偵察。                                                          
5月3日一の沢をスキー滑降。                                                            
前日の雪が降りつもっていたと思ったが、雨のせいか安定して滑り易い。
                                                                
約1800メートル地点でスキーを脱ぐ                                                            
5月4日三股から蝶岳に登頂。                                                            
途中常念岳から南に直線的に見える常念沢は、友人がリーチをかけているから諦
める。                                                          
カンビールを2つ飲んだら、朝からなにも食べてないためか、肝心な時に酔って
しまう。                                                                
頂上から、東面の2つの沢を地図と地形から右に走る沢に決めた。                                                            
2重山稜のため噴火口状の窪地があり、山頂直下からジャンプターンで下る。
                                                                
好天のため大勢の登山者がビデオを撮ったりしてくれたようだ。                                                              
こんな時は、意外とビビッテしまう。                                                              
這松を3メートル程下り、下の急斜面を覗く。                                                              
直感的に「これはいける」と思う。体中にアドレナリンが充満。                                                              
喉がやけに乾いてくる。                                                         
 最初の40メートルだけ慎重に下れば、後はなんのことはないただの斜面。
                                                                
途中ブルーとグリーンのザックカバーが落ちていた。                                                                
これは5月2日の突風で流されたものだろう。常念岳も同じだった.                                                          
雪面は、滑降に申し分なく、板は曲り易い。                                                                
左右から沢が出て来るが、いずれも大きなブロックが散乱。                                                          
標高が低い山のためか、沢筋以外の尾根は樹林が濃い。                                                              
1950メートル地点からトラバース。                                                            
登った時のコースに出るために、沢筋を約50メートル登り返す。                                                            
登山道に出ると、やっと終った気分になる。                                                                
1918メートルの地点から登山道の右にある小さな薄暗い沢に入り滑る。
                                                                
雑木が邪魔だったが,硬い残雪のおかげでかなり滑降標高差をかせげた。
                                                                
約1600メートル地点でスキーを脱ぐ                                                            
三股に15時30分着。                                                         
 今年のゴールデンウイークは天気が悪く、あまり自分の思った山行ができなかっ
た。

黒部湖周辺をスキー

北ア・黒部湖周辺をスキーとゴムボートで遊ぶ
大阪あすなろ山岳会 古倉 康雄 ビル エバンス同人 原 伸也
日時調査中
 
僕らがいつも考えているのは,山で何か面白いことが出来ないかということ
だ.
ちょうど数年前に,山スキーの仲間の加藤氏が5月の連休にビニールボートで黒
部湖を横断しよう
としたが,沈没しそうになり中止.
「今年こそは丈夫なゴムボートでやるぞ」との決意に賛同した変人の2人が同行
することとなり,
そんな具合いで,今年の連休時にスキーとゴムボートを使った北アルプス横断計
画ができあがった.
  古典的な黒部横断ルートはダムが出来てからは夏には登山客のために,船の定
期便があるがその時期以外に黒部湖を
渡るには,泳ぐかボート持参かということになる.
特殊な例として,うろ覚えながら昔の雑誌の写真で
厳冬期にどこかの大学のパーティーが凍結した湖をスキーで渡った記録をみたこ
とがある.
まだ誰もやったことの無いであろうと思われる積雪期黒部湖のゴムボートによる
横断をやるのは,計画の段階からすでに心の中は
かなりエキサイティングだ.
他人が「なんて変な事をやるのだろう」と言っても,僕らにはとてつもなく答え
られない面白さがあるのだ.
  ところが運命とは皮肉なもので,出発の3日前から発案者の加藤氏はウイルス
性の風邪でダウン.
直前になっても治らなく,購入してくれた新品のゴムボートを持って大阪から夜
行列車に乗りこむ.

5月2日
  ボート等の共同装備を分けあい担ぐと,ひどく重く感じる.7時半出発.
扇沢の手前から,つい5週間前に滑った蓮華岳丸石沢(多分初滑降)が見える.
一箇所シュルンドが新雪で隠れてることも考えられるが,
どうやら,雪の少ない今年でも連休前半までならば危険そうな箇所もなんとか下
れそうだ.
雪は200メートル程進んだ所から上部へつながり,シールを着けて登りはじめ
た.
数本の堰堤を越すと,大沢小屋の周辺にテントが張ってある.
  途中出会った地元の登山者に「今は針の木小屋でビール売ってますか?」
と尋ねてみると,「あいにく6月の慎太郎祭まで小屋は開かないよ」とのつれな
い返答に登高スピードがガックリ落ちる.
細かい雪が降り始め,視界も悪くなって針の木岳本峰の姿は見えない.
最後の急登はスキーを脱ぎ,細引きで引き上げる.
針の木峠は南からの寒風が強くすぐに手がかじかんでしまう.
他の登山者は悪天のため本峰のアタックを諦めどんどんと下ってしまった.
スキーをセットするのもつらく,靴紐もしっかり締め付けずに滑る.
2日前ぐらいに降った雪のせいで潜って滑りにくい.雪崩発生の一歩手前のよう
な感じだ.
昨年の快適な雪の状況が頭にこびりついていたから少し嫌な気になる.
1950メートル地点から沢に水が流れ始め滑れなくなると,スキーはどうしよ
うもない荷物となる
途中からまだ真新しい足跡があり.「こんなところをあるくのは釣り人かな?」
と,互いに首をかしげる.
足跡のおかげでスキーを背おっての歩行が少しは楽だ.
部分的に滑れる所もあるが,重荷もあるしスキーを着けたり外したりするのが面
倒なためやめる.
沢は広く,特に悪場はないがスキー板のテールが岩に何度もガツガツとあたるの
が気がかりだ.
  針の木谷のちょうど中間地点で,先を歩いていた足跡の主の2人に出会う.
焚火を囲んでするめを焼きながら,もうすでに一杯やっている.
珍しい墨入りのするめからビールだ酒だとどんどん勧められ,はじめて出会った
だけでこんなに親切にして
もらい恐縮してしまうが,根っから好きなためさんざんご馳走をいただいた.
参考までに会の名前は東京樗の会.
彼らは,途中に見えた険しい針の木岳西尾根を登るとのことだ.
  重荷と長い行程に,些かくたびれてきた.
本当にこんな所を昔のあのなにも無い時代の人たちが厳冬期に歩いたのだろう
か.
記録はなにも残されていないが,佐佐 成正の家来達の多分何十人かはこの谷の
中で消えてしまったことだろう.
小雨が降り始め,沢を大きく高巻くと簡素な避難小屋に5時到着.
我々が意図していた北アルプス横断の一番の難所の黒部湖が見える.
地図上よりも水位はかなり低いのは,今年の雪不足のためだろうか.
水汲みのついでに湖の状態を見に行くと,心配していた氷のかけらもなく波もお
だやかだ.

5月3日
  雨は収まっていたが小屋の辺りの風は強い.
ボート本体の試運転もせずに,用具店からそのまま持ってきたままだから
説明書を頼りに組み立てる.
ゴムボートに足で空気を送風する道具を使うとものの5分で完璧に膨らむ.
2気室で万がいち片方に穴があいてもだいじょうぶなようで一安心.
ボートの下に敷く厚い底板は重くて持ってこなかったから,安定用にスキーを並
べた.
四人用のはずなのだが,本当に我々2人と荷物の重さをこのちっぽけなボートで
浮かべてくれるのか不安だ.
8時20分,古倉氏がボートに乗り,原は裸足になってボートをズルズルと岸か
ら離れさせてから飛び乗る.
湖面にちゃんと浮かんだ時は,やったなと思ったが
僕達はゴムボートなんか漕いだ事もないし
岸からだいぶ離れても半信半疑の気持ちが続く.
対岸との中間地点まで進むと,湖の大きさがよくわかってくる.
ボートの調子が余りに良いし,人が歩くぐらいのスピードがでる.
たったの300メートル先の平の小屋近くの対岸までなんて,とてももったいな
い気がし
「どうせなら黒部ダムの手前まで行ってしまおう」と得意な方向急転換を決め
る.
ザラ峠越えのクラシックルートは今後の課題とし,加藤氏へのおみやげにした.
力はほとんど入れてないのに,素手で漕ぐと擦れてすぐに手の平に豆ができるの
で,手袋でカバーすると具合いが良くなる.
曇り空のなか春風は心地よく吹いてくれる.
ちょうど南風が追風となってくれてありがたい.
余りの快適さに2人共鼻歌混じりでニコニコ.
「我は湖の子さすらあいのー」と歌いながらパドルを漕ぐ.
いつか死んだらこの顔で飾ってもらおうと写真をパチパチ.
周囲の山々特に針の木岳から北の峰は眺望が素晴らしく圧倒される.
はるか南の山はおたやかな白い雪山.
こんなに快適なら釣り糸を垂らしながら漕ぐのも良かったなあとため息がもれ
た.
湖面の中央にいるとボートの進み具合いがまるっきり遅く感じるし
緊急の脱出にも備え主に登山道の続く東側の岸辺を漕ぐ.
このゴムボートの欠点は,進行性がなくすぐにクルクルと回ることだけだ.
一応四人用のはずだが,荷物のせいで2人ぐらいで適当と思えた.
黒部ダムの真前で大勢の観光客に手を振ろうかと思い付いたが,ダムの管理者に
何を言われるのかわからないから,静かにゴムボートをロッジくろよん手前の湖
岸に接岸させ
対岸への上陸を果たした.
走破距離約4キロ所用時間1時間半.
古倉氏の話では,今ごろの西岸の登山道を歩くととんでもない時間がかかるとの
ことだ.
ボート及びその付属品,重い酒や食料を安全そうな場所に隠し,スキーを背負い
再び登り始め,雪面が出始めると疎林の下に初めて見る巨大なダムが眼前に迫る
計画当初に対岸に見える大スバリ沢は地図では快適な滑降ができるんじゃあない
かと考えていたが,事前の調査
では大滝がゴロゴロあるとの情報を親切な知人から入手.確かにその通りの景色
だ
1630メートル地点からシールをつけて歩くと
ロープウェイの乗り場のくろべだいらからアナウンスが大きく聞こえる.
休みも取らずで急いで上がると,大勢のスキーヤーがワンサカと滑り降りて来
る.
登っているのは僕達だけだ.
タンボ平周辺から上部の景色は,まるでヨーロッツパのスキー場のような雰囲
気.
東一の越の急な斜面を乗り越すとひどい強風のため古倉氏は帽子を飛ばしてしま
った.
  アイスバーンに気を付けながR進むと,小さな不安定そうな雪庇をつけた尾根
にぶつかる.
普段だったら簡単に進めるのだろうが,なにしろホワイトアウト手前ぐらいの天
気
になるし,立ち止まってどうしようかなとのんきに考えこんでいると,突然
足元から雪が崩れそのまま100M流される.
巻き込まれている間はとにかくここからのがれようと手をバタバタしたりしても
がくが,雪が止まるまでどうしようもなかった.
誘発雪崩は南アルプス仙丈ガ岳以来2度目だがこんなに大きいのは初めてだ.
上を見上げると確かに自分のシュプールの跡から下の雪がスッパリと落ちてい
る.
帰宅後山仲間から悪運強しといわれた.
  一の越山荘になま暖かい強風に吹かれながら身も心もヨレヨレになってたどり
着くと,相棒はスープを作って待っていてくれた.
室堂まで降りようと外に出るが,顔面を叩きつける強風で足が前に出ない.
最初の2歩で2人共いそいそと小屋にひきかえす.
それじゃあどうしようか,小屋にとまるかそれとも頼りない夏用のテントで泊ま
るのか
議論した結果,わざわざ運びあげたテントを惜しみ雄山谷側に少しくだった場所
に張る.
雪がテントの上に覆いかぶさり,おかげでその重みが布団の代わりになってくれ
た

5月4日
  小屋の休憩所を借用して朝飯を作っていると,2日前にも扇沢で出発前に出会
った名古屋のスキーの旧友と再会.
他の登山者は,昨日よりますます悪化するひどい吹雪のため出た連中もすぐに引
き返して来る.
もろに足元からたたきつける風ではどうしようもない.女の子達は半べそ顔だ.
無理して室堂方面へ滑り込むことも考えたが,いつも行っている平坦なルートよ
りまだ僕にとって未知な雄山谷をするほうが魅力的な気がする.
この天気では,いくら時間待ちしたり祈ったり時間待ちしても無駄なようだし,
旧友とともに4人で雄山谷へと滑ることにした.
  吹き上がる風とホワイトアウトで皆不安な感じのすべりだ.
こんな時一番いやなのは,滑っていても移動していない感覚だ.
あえて転べば滑っているのか分かるのだが,こんな時にそんな余裕なんかありは
しない.
昨年の悪天の深雪も滑っている相棒を先頭に,慎重な下り.
互いに離れ離れにならないよう30M滑っては周囲の状況を確認し下る.
アイスバーンと浅い新雪が交互に現れ,好みの場所を選ぶ.
右の幾つかの谷からのデブリの起伏でガクガクし滑りにくくなる.
左手に岩肌がちかずくと後は疎林の谷間をゆっくりと降りる.
先に滑っていたヘルメット部隊の3人を追越すと,スキー靴から登山靴にはきか
えていた.
滑降高度差1330メートルのコースは天気さえよければ最高だろう.
  旧友らと別れ,ゴムボート等を回収すると,また一段と荷物が重く感じる.
もう一度重いゴムボートを担ぎながら針の木を越えてみようなんて気はしなくな
る.
ダムまで漕ぐ案もあったが,降雪のためやめた.
余っているウイスキーをやりながら黒部ダムに着くと大勢の観光客がゾロゾロと
あるいている.
まったく人影のなかった南の湖面に目をうつしながらバス停へと酔っぱらいなが
ら歩いた.
連休中のわずか3日間のあまり良い天気でないなかを,なんとか自由に黒部周辺
を遊びまわれた事は
華々しくもなくたいした記録でもないが一生の我々の思い出となるであろう