伊藤忠男
とんでる引き出しの隅から思いもかけずに、白馬鑓から飛んだときの写真が出てきました。飛 んでるボクがまるで埃みたいなんで丸付けちゃいましたけど分かりますか? スキ- で遅れて登って来る仲間が撮ったもんです。 で、滅多にない記録なんで、古いけどここに書く(打つ)ことにしたってわけです。 写真でもないと、山飛びなんて、うまくいっちゃうと、たいして書くこともないし目 を引かんもんね。 >>> 92年5月7日 : 小蓮華岳から栂森 >>> 高度差:1100m、 フライト時間: 約20分。 自家用車がこの時期に栂森まで入れたのはこの年まで。朝7:00、栂森ゲレンデの 下に車を置いて、栂池自然園へ向かう。テレマ-ク・スキ-ヤ-が3人、シ-ル付け てスタコラ行ってしまった。こっちは風が悪いときようにスキ-まで背負っているの でつぼ足でのんびり。自然園のプラ-トを南へづっと振って適当なところから、小蓮 華北のジャンクションへ直登。11時頃に稜線に出たが、風が西風なので気がすすま ず、大池の見えるところまで戻って、風の変化を静観する。1時間待つと弱いフォロ -(西風)になったので、足場を踏み固め、走路を作った。立ち上げるたびに横にし てリュックに付けたスキ-にラインが絡んで閉口した。結局テイクオフしたのは午後 1時を廻っていたと思う。リフトがかからない気持ちの悪いテイクオフだった。自然 園まで前(東)へ出て行くと、南風とのウィンドシェア-にぶつかって、思いっきり 揺さぶられたが、そこから栂森まで追い風に乗ってあっという間にスキ-場の上空。 対地高度は100mを割っていたので簡単な高度処理をしてアプロ-チ。ところがス キ-場によくあるパタ-ンで、低高度になると風向がころころ変わって、アテタと思 った風がいきなりフォロ-になって、着地するなり、ベタッと顔面から前へ転がって しまった。そっとおきあがり、恐る恐る廻りを見た。しめしめ誰もいないぞお。いや あ、こんなとこ見られたらなにいわれっかわかんねえもんなあ。とはいっても油断で きないので、口笛ふきながら堂々とした動作で機体をたたんでいたら、リフトの作業 員らしいひとがこっちを見て笑った...ように見えた。わ、わ、わ、わらったなあ 。 >>> 93年6月12日 : 白馬岳から長走沢出合 >>> 高度差:1600m、 フライト時間: 約44分 梅雨の直前にある静穏な時季を狙っていた。午前2時に家を出て中央を飛ばし猿倉に 5:20着。 快晴でいまのところ風もない。メシを食って6:40に出発。前に懲りたので今回は スキ-はもたない。だめだったら、グリセ-ドで降りてこよう。馬尻 7:20。3 号雪渓の下まで上からなでるような風が降りて来ていた。これは雪面付近の気温低下 で起きる接地性逆転層で、雪の上では受け入れなければならない現象だ。頂上10: 30。稜線にでるなりやはり西風が顕著で、すんなりテイクオフする気になれない。 頂上山荘前の緩やかな斜面に自作のウィンド・ソックスを立てて様子見。昼近くなっ てこころもち西風の勢力が上がったような気がしてきた。飛ぶかやめるかの決断をし なければならない。 山荘の斜面はいったん黒部側に向いているのでそのままテイクオフできれば、西風を 生かせる。問題は2重稜線になっている黒部よりの浅いリッジを超えてしまうとこち らには戻れないってところだ。 12:03、緩い斜面なので、ゆっくり立ち上げキャノピ-を頭上で止めたまま、グ ランドハンドリングで風にあわせたまま50mほど歩いていき、徐々に加速してリフ トがかかって来るのを充分にかんじてからなるべく東よりに崖へ飛び込んだ。村営宿 舎のすぐ上で、東へタ-ンすると、恐ろしい音とともに揺さぶられ、ベンチから落ち てしまった。立ったカッコを修正できず、そのままタ-ンを続け、大雪渓の上空をク ロスして白馬主稜に近づく。小岩峰が入り組んでいて、スティッキ-なサ-マルがぶ つかり、そのたびにすごいリフトがかかる。腕力全開。あっという間に再び村営宿舎 よりも上にでてしまう。大雪渓の方向に修正すると、いきなり静粛が訪れた。機体が 風を裂いていく音だけが聞こえ、ゆれも止まった。ベンチに座り直し、そのまままっ すぐ馬尻の上空から小日向山を目指す。雪の消えた杓子東稜の末端付近にはサ-マル が出ていて、ゆっくりタ-ンしても高度が上がった。小日向山にもサ-マルがでてい て、八方側南斜面でまた上がる。なんとなく八方まで行ってしまいたくなったが、や めた。生活圏への侵入はなんとなくやっちゃいけないんだ。 小日向山の北側で180度タ-ンを繰り返し高度を下げ、ブッシュの出始めている長 走沢の平らなところにランディングした。 >>> 94年5月29日 白馬鑓ケ岳から二股 >>> 高度差:1700m、 フライト時間: 約25分 例年なら鑓の東面は雪が締まってこの時季が一番スキ-滑降に適しているが、この年 はどういう訳か寡雪で、しかも小日向のコルまでの猿倉台地は完全にブッシュ。スキ -を使う2人の相棒は悲惨だ。コルまでいつもなら1時間みれば充分なのにこの日は 3時間かかってしまった。あまり天気が良くないので、出足も遅れたが結局まだ営業 どころか仮設もされていない鑓温泉についたのが12時過ぎ。雲量は10だが、雲は 高い。穏やかで、まったく風がない。山から飛ぶには良いかもしれない。スキ-の仲 間は一人遅れているが構わず、メシを食ってそのまま頂上へ向かった。頂上3:00 。機体を広げられる斜面がなく、肩まで降りた。浅いルンゼ状に機体を広げるが、テ イクオフに必要な向かい風がない。ないなら良いが時折上からわずかなフォロ-さえ 入って来る。30分ほど様子をみたが、状況は変わらないし、時間ももう夕方。相棒 に見守られて緩い雪の斜面を全力疾走した。相当走ったあと走りながら上を見ると、 まだキャノピ-はくしゃくしゃでがっかりした。斜面の傾斜が急になったとたん、ふ いに足が離れた。対地高度がみるみる上がってヤッホ-。穏やかで、キャノピ-の風 切り音だけが聞こえる。サ-マルが出ているとは思えないのでとにかくまっすぐ。眼 下に鑓温泉がみえると、目前に天狗から落ちてきている脆そうな岩のマイナ-リッジ がみるみる近づいてきた。少し修正してロクエモンの滝の上を忠実に辿って、唐松沢 の下流から南股入に入る。ゆっくり360度回転して広そうな河原にあたりをつけた 。二股発電所の上部にランディング。最後まで穏やかで、なんと、着地まで、この標 高差をわずか4回のタ-ンで降りてしまった。 Chu