HISTORY & STORY

4.30.2004

RIP 黒川晴介

シャモニーモンブランで

カリフォルニアヨセミテで

パウダーガイド誌の記事




2000年山と渓谷社刊の著書。
これに彼の海外登山がひととおりがのっています。
晴介さんは2004年大峯山でガイド中、
顧客が滑落したのを助けようとしてともに墜落死
             
追加 2014年10月

古い写真がでてきました。
アルプスに3か4シーズン行っています。
2,3は彼のガイドでグランドジョラス、ユングフラウ、メンヒなど登りました。グリンデルワルトには金森さんもやってきました。
いちばん下2枚は、メラピークでスキーしたときです









          





黒川氏の寄稿2本を以下転載。

僕はどうしてインドアクライミングをしないのだろう
黒川晴介

YOSEMITEで
 

「なぜ僕はインドアクライミングをしないんだろう?」
これは「なぜ僕はたばこを吸わないんだろう?」とたいして違わない理由です。「体に悪いから」で
も「お金がないから」でも「いかさない」からでもありません。むしろ人が何かを能動的に行なうに
は理由があっても何かをしないのはそんなに深い理由はないと思います。まあ、あえて言えば、たい
して興味がないからでしょう。逆にインドアクライミングを定期的にする人に聞いてみたらどうで
しょう。「おもしろいから」「健康のため」「ロッククライミングのトレーニングとして」等々の理
由があるかもしれません。

じゃ、僕はなぜロッククライミングは好きなんでしょう。Because it's funでしょう。インドアと
アウトドアの違いは何でしょう。太陽があたるから? やはり人間も動物だからある程度太陽光線は
必要です。メダカを飼う場合、太陽をあてるのとあてないのでは成長スピードにずいぶん違いがあり
ます。カメを育てる場合、太陽をあてないと上手く育てられません。でも、そんな単純なもんじゃな
いでしょう。

僕の大好きなロッククライミングはやはり、自分でプロテクションをセットしながらのクラック
クライミングです。もちろんペッツェルボルトで安心して登るのも悪くないけど、すべての
プロテクションを自分でセットして、あるルートをフラッシュした時、僕は大いによろこびを感じま
す。

おそらく僕はロッククライミングという行為にある程度の不確かさをみつけ、そのなかでよりよ
い自分の姿勢を見いだす事によろこびをかんじているんだと思います。2回目に5.11をレッドポイ
ントするより5.10をフラシュした時の気分が良いんです。

これは僕の登山観にもつうじています。
前回ひとりで登ったヨーロッパアルプスの山々や、NZのマウントクックをもう一度登りに行った
ら、よほどひどいコンディションでなければ、かなりたいくつでかんたんな登山になってしまいま
す。でも、最初の一回というのはすべてが未知で、不安や恐怖にさいなまされながらもなんとか頂上
をめざす自分を見つける事ができます。もちろん2回目の登山にも様々なよろこびがあります。良い
パートナーと共有する時間、ある種余裕をもった1日の中で思いつくつぎのプラン…。

けれど、やはり僕にとって重要なのは「その瞬間においてのみ可能なある限られた体験」なのです。
もう2度とありません。

トレーニングしてより難しいグレイドが登れるようになれば楽しめるルートもふえるでしょう。で
も僕にとって大切なのは「いくつのグレイドを登ったか」より「自分がそのクライミングからどんな
印象を受けたか」なのだと思います。結局僕にとってインドアクライミングはロッククライミングを
より楽しむための手段にはなりえてもそれ自体を自分の目的とはなしえないという事です。

だから、チャンスがあればやるけれど、わざわざ時間をさいてやりに行く事はあまり考えられない
という事です。

 実際問題、雪の季節になると、テレマークスキーに忙しくなるので、クライミングそのものがお留
守になってしまうのです。雪山のバリエーションにいったりもしますが、乾いた岩のクライミングと
は冬の間しばらくご無沙汰になるのです。そして、それはそれで仕方がないことなのです。


「インスボンへの旅」
西宮遊太

 

30リットルのザックひとつと、小さなトートバッグひとつで成田空港を出発した。海外
にでかけるのにこんなに少ない荷物ははじめてだ。クライミングにしろ、スキーにしろ、
いつもならチェックインカウンターで、荷物の超過を心配しているところだ。今回は、そ
んな心配はまったくなかった。
 夏休みにどこへ行こうかと、いろいろ考えた。アルプスにでも行きたいところだが、
それほどヒマとカネもない。近場で行ったことのないところ、韓国のインスボン(仁寿峰)
が浮上してきた。
 8月25日。ソウルまではすぐだ。現在、短期の観光はビザがいらない。飛行時間も2
時間あまり、あっけない海外への旅だ。
 インスボンへは、空港から直接タクシーで行くと便利だ。インスボンは、ソウル郊外
北部の北漢山国立公園にある。タクシーの運転手には英語はあまり通じない。行き先をハ
ングル文字か漢字で紙に書いて見せた方がよいと思う。(韓国の人にはあまり英語は通じ
ない。空港や観光地などでは日本語のほうがよく通じる事がある。)
 さて、タクシーを終点のトソンサで降りて歩きはじめる。ここには門前町で売店があ
るので、ジュースやおやつを買う事ができる。目的地の白雲山荘までは1時間ほどの登り
だ。日本の雑木林とよく似た道を登ってゆくと、けっこう登山者にであう。ここはソウル
市内からすぐなので、日帰りで山歩きを楽しむ人が多いようだ。
 白雲山荘は、数年前に建てかえられた、新しいログハウスで、なかなかいごこちが良
い。板の間に直接寝るので、マットと寝袋が必要だが、山荘で借りる事もできる。食事は
外のテラスで自炊している人もいたけれど、朝食と夕食を出してもらった方が良い。2食
付でマットと寝袋を借りて、一泊2500円くらいだ。
 食事はとてもおいしい。唯一の問題点は量が多すぎる事だ。(今回の旅で、2kgも太
ってしまった。)ごはんとみそ汁に、おかずは野菜、魚介類、肉料理、たまごやき、キム
チ2~3種、のり、だいたい10皿ならぶ。朝食の方が少しあっさりしたおかずが多いくら
いで、やはりすごいボリュウームだ。もちろんよく冷えたビールや、焼酎を買うこともで
きる。マッカリというにごり酒もおいしい。
 午前中の飛行機に乗れば、夕方には白雲山荘に入ることができる。この日はビールを
飲んで暗くなるとすぐ寝てしまった。
8月26日
インスボンの岩場へは山荘より歩いて10分くらいでとりつくことができる。
とりあえず下降路をチェックしたいので、多くの人が頂上よりラッペルに使うビドウル
ギ(Bi Dul Gi はとの意味)ルートを登った。簡単なフリー2ピッチとA0、1ピッ
チで終了点につく。アンカーは鉄製の大きなものがあり、途中のラッペルポイントともよ
く整備されている。
僕たちは50メートルロープ1本しか持っていかなかったので、4回のラッペルで取り付
きにもどった。どのルートもロープ2本を持ってゆけば、同ルートを下降できるようだが
頂上より歩いて下るルートはないので、ほとんどの人がこのルートでラッペルするようだ。
1本登って降りてくると昼前になったので、山荘に戻って昼食にした。昼食向けに特別
にメニューがあるわけではないので、カップラーメンか、(けっこううまい)あたたかい
ソーメンのような、コリアンヌードルを食べる。ビールをたのむとキムチを皿いっぱいだ
してくれるので、これをコリアンヌードルに入れてもおいしい。
昼食を食べていると、山荘のキムさんが、午後から案内してくれるとの事。よろこんで
お願いする。キムさんは31才、ヨーロッパアルプスに登りに行ったことのある親切なクラ
イマーだ。英語もうまい。ひまなときにはクラリネットを吹いている。
昨夜、世間話をしたときに、クラッククライミングが好きだと話したので、アミドンと
いうルートに案内してくれた。アミドンはインスボン東面にあり、5ピッチほどでぬける
ことができる。(どこまでロープを使うかで、ピッチ数は変わる)
まず2ピッチ、やさしいところを登り、クラックにとりつく。インスボンは全般的に傾
斜がゆるく、フリクションが良いので、手がかりがあればやさしく感じる。3ピッチめは
5.9のクラックを登り、クラックがなくなったところから、5.10aのスラブのトラバー
スに入る。クラックはジャミングがよくきくので、難しくないがスラブの一歩がどうにも
こなせない。パートナーの伊藤に替わってもらうと、あっさり登ってしまう。さらに2ピ
ッチ登ってロープをはずす。
頂上までに小さいが、すべりやすいスラブがでてきて少し緊張した。
頂上からのながめはもちろんすばらしい。ラッペルポイントまでは少し歩いて下る。フ
ィックスロープ(てすり用)もあり、かんたんだ。ロープ2本でラッペルしたので、2回
で戻ることができた。山荘に帰り、キムさんたちとビールを楽しんだ。
8月27日
クラックを楽しもうと、有名なシュイナードA(キバID)に出かける。このルートは
ほとんどがクラックで構成されるすばらしいルートだ。やさしいところを2ピッチ登り、
5.8の長いレイバックに入る。フリクションもよく、手がかりもしっかりしており、爽快
なクライミングがつづく。
次のピッチは5.10aのハンドクラックだ。小さなハング越えがあり、そこが核心部。ハ
ングを越えるとえんえんとクラックがつづいている。さらに2ピッチ登って頂上への踏み
あとに入る。
この日は意外と時間がかかってしまい、一本だけで山荘に帰りビールを飲むことにした。
インスボンは白雲山荘から近いし、のんびりした気分でクライミングが楽しめる。あま
りガツガツ登りたいという感じにならなかった。グレードが高くないルートでも、明るく
広びろとした岩場を自分でプロテクションをセットしながら、どんどん登ってゆくのは本
当に楽しい。難しい20メートルを登るのとは違った楽しみかただ。
8月28日
午前中に1本登ることもできたけれど、少し疲れたので朝から下山することにした。途
中の峠から見上げたインスボンはやはり立派だ。1時間ほどでトソンサにつく。お寺を拝
観してからタクシーで東大門に向った。キムさんにクライミングショップをおしえてもら
ったので、少しショッピングを楽しむ。韓国ではなぜか5.10のシューズが安い。
夕食には当然のように焼肉屋にむかい、たっぷりと肉を食べて、韓国の旅をしめくくっ
た。
明るく広びろとした花崗岩のマルチピッチは、ひごろ小さな岩場でロッククライミング
をしている僕にとって、新鮮で心の昂揚する体験だった。
インスボンではキャメロットやナッツを結構使うので、キャメロット2セット、大きめ
のナッツかエイリアンを少し持って行った方が良いと思う。