HISTORY & STORY

6.25.2012

西剣、東剣探検


西剣、東剣探検
2012年6月23日土曜日
member Taro Itokisya記
林道富士線

無名林道広場からの富士山 左から小御岳流し、大流し、白草流し

西剣の火口行き止まり。形状は火口基底430mで深さ70mらしい

梅雨中だが晴れマークもあるようなんで、早起きして出かける。酒匂川で太郎の散歩。松田庶子のあたり、2つ続いた台風のせいで想像以上の大水になったよう。3段堤防の2段目まで水跡があった。箱根や足柄、西丹沢の水が集まる酒匂川は長さはたいしたことないが水の力は偉大なようだ。今朝も大水の名残で濁流が激しい。この川はうちの近くの多摩川よりも広くて川の様子や景色もいい。川遊びもできるんで太郎はとっても気にいっている。。。
篭坂峠を越えて郡内に入り河口湖大石へ。9時にパラグライダースクールをのぞくが常連組はだれもいない。富士山は見えるが大石村の背の山は雲が低い。空を飛ぶには按配よくないかんじ。試乗用のグライダーやハーネスをあーだこーだと吟味、昼からハイキングへ。

前フリが長いが日も長いので急がなくてもいいのである。河口湖大橋を渡り船津から富士山へ向かう。国道139号のダイエー前の交差点は船津口登山道という名前。こんなところに?という名称だがこれは正しいのである。旧登山道は湖水の際からここを通って富士山頂へとえんえんと延びていたのである。
西剣火口のカツラ


直線で8kmあるアプローチを車で上がり車止めのある船津口登山道入り口に着く。ここから林道富士線が右左に延びている。富士山へ向かうのなら正面の車止めを越えて山道に入る。江戸や明治大正の頃はアプローチ8kmを歩いて登ったのだろうが、昭和の時代、富士スバルラインができるまでは、登山バスが河口湖船津からここへ、さらに目の前の山道を3合目まで上がっていたらしい。3合目は標高1800m、さらにそこで四輪駆動バスに乗り換えて5合目2300mまで登ることができたという。本当だろうか。こんど見てみたい。

●西剣

旧船津口登山道探索はまた次回のたのしみにとっておいて、今日のプランは別のところである。今いる林道富士線を利用して以前から気になっていた西剣と東剣というふたつの寄生火山を探訪したい。
林道富士線を左回りにドライブする。有料道路スバルラインと併行して富士中腹を延びるこの林道だが、5合目に到達することはなく途中あちこちで支線を延ばして1762mで終点となっている。道の格付けとしては県道らしい。林道だから沿線では造林や伐採が盛んに行われている。これ以外にも地図にはない林道があちこちに張りめぐらされていて、富士山は林道がいっぱいなのである。
まず西剣標高1584m。2万5千分の1地形図を見ると林道富士線を西へ3kmほど行ったところに西剣の火口へ続く謎のトラック(破線)がある。西剣は北面に開口部つまり火口を持つ馬蹄形の火山(学問的には側火山あるいはスコリア丘という)で、トレイルは火口谷を辿り火口中央まで達したあと山腹を逆時計回りで巻いて、別の林道と合流している。まるで火口探検のためにつけられたようなルートになっている。山頂に続く破線はないが、とにもかくにもこれは実地で見てみたいルートである。

地形図どおり林道富士線を西へ。林道とはいえ舗装路、ただし1車線。それらしい沢状地形があって橋がかかっている。左手山側をのぞくと細いトレイルが続いているようだ。車を200mほど先の路側に置いて、1時スタート。
橋の脇から沢に沿って細いトレイルが山へ登っているのでこれを辿る。近頃人の入ったあとはない。一帯は針葉樹の植林帯でシラビソのように見える。標識があって40年ほど前にシラベを植林した云々、吉田林務事務所、と書かれている。沢を辿るが水が流れているわけではない。その昔溶岩が流れ出した火口谷なのだ。谷が行き止まりになって一段上がったところが広場になっている。空き缶や空き瓶が散らかっていてハイカーの仕業とは思えない。

火口の底にいるわけだから正面と右、左は雑木の山が迫っている。植林はここまでらしい。ご神木のような太いカツラが2本。伐採を免れた巨木なのだろう。トレイルは、と見るとここでヘアピンカーブになって山腹を反対方向へ向かっている。地形図のとおりで、ここからは車ならなんとか通れそうな幅に広がっている。古い林道なのだろう。
地形図の破線はハイキングのためのトレイルではないようだ。造林のための仕事道だと想像できる。
そんなわけだから西剣の山頂へ続くトレイルがなくても不思議ではない。仕方がないので雑木林を急登していちばん高いところを目ざす。山頂近くからスズダケの藪になるがこれを突破、どこが山頂かもわからないまま下りに入りササ藪を直進するとすぐに林道に降り立つことができた。地図にあるとおりの立派な林道でダート道で歩きやすい。時計は3時。ここで大休止。

西剣の火口に入り、カツラの巨木が2本生きているのを見た。謎のトレイルが林業用の細道だったこともわかった。ついでに西剣の山頂は展望のないササ藪の中にあるこも体験できた第1ステージだった。

●無名小山と東剣
巨大樹海を作った青木ヶ原溶岩流はよく知られているが、ほかに富士山から噴出した大きな溶岩流といえば剣丸尾溶岩流だろう。山頂直下の牛ヶ窪や小御岳流しなど複数の火口から流れ出したマグマがえんえんと下り河口湖町の近くまで達している。西暦930年ころというから遠い昔のことではない。これが剣丸尾でマルビとは溶岩の流れのこと。西剣も東剣もこの剣丸尾溶岩流を生み出した仲間なのだろうと想像していたのだが、ものの本によれば2つの火山の誕生は別の時期だという。
研究者のレポートでは、西剣は4600年前、東剣3600~3300年前に噴火した火山だという。古い火山なのだ(それにしても火山の誕生日を割り出すことができる科学と研究者には脱帽)。

さて次はその3000年以上前にできた火山東剣を見たい。地図とGPSを見比べる。
いまいるこの林道を東に辿りどこかで東剣に登る踏み跡を見つければよいだろう、とおおまかなプランを立てる。地図によればスバルラインからだと、たった200mで山頂に達することができそうなのだが、今日は周遊ルートでなければならない。地形図には東剣の山頂には窪み表示があって立派な火口があることを表している。たのしみ。

初夏の草花が路傍で微笑む林道を進む。200mほどで地図にはない林道が交差する。
うーん、あてずっぽうで地図にない林道を山側へと上がる。再び200mほど進むと残雪の富士山がよく見える広場にでる。スバルラインを走る車の音が聞こえてきて、富士山の北面と沢筋に残る雪形が見える。広場から仕事道のような踏み跡があるので東剣の方角へと進む。カラマツの幼樹の植林エリアで、足元にはシロバナヘビイチゴの群落があちこちに。道が行き止まりになって藪をかき分け崖を登ると古い林道に出る。再び道を失い黒森の林へと入る。カラマツの植林帯のようだ。直径50mほどの大皿のような窪みを発見。これは火口だろう。

地図を改めて見てみると、東剣の西にこんもりとした無名の小山があるのがわかる。これも寄生火山にちがいない。まずはそこへ向かおう。植林帯の中にも古い林道があってこれを辿ると右に左に塹壕のような火口跡が現れる。火口列に違いない。けっきょく無名小山の山腹にはいくつか顕著な火山地形があることがわかった。さらに山頂1610mに上がってみると、そこらあたりは、あっけらかんとしたカラマツの林で火口とかカルデラとかの類はないこともわかった。
東剣の長円火口

黒森に戻り倒木帯を避けながら進むうちに結局スバルラインに出くわすことになる。道路脇を歩くとすぐに道路管理のトラックがとまる資材置き場にでて、ひとやすみ。スバルラインは休日とあって観光のクルマがあわただしく往来している。
資材小屋の裏が目ざす東剣なのだがスズダケが密生していて侵入者をよせつけない。西剣もそうだったが日当たりのいい南面はブッシュが濃いようだ。
少し回りこんで藪の薄い斜面を見つけてケモノ道を辿る。東剣の山頂部は雑木林で人の手が入っていないように見える。登りついた山頂は長い尾根のようだった。倒木と藪がうるさいが歩けないほどではない。長い尾根のように見えるがこれは火口縁だろう。

左側に谷のように見えるのが火口だからと下り気味に進む。下生えがなくなって100歩ほどで火口の底に降りることができた。いくらかの倒木と草むらがあるが空が開いていて明るい。基底直径300m、高さ70m、火口直径100mと研究者の火山データには記載されているが、見た目は長円形の火口縁をもつ船底のようなクレータだ。噴気や熱気は感じられない。太郎は草むらの辺りをくんくんしている。火口底は動物たちの楽園となっているようだ。

お鉢の北側を登り返して火口縁に戻る。お鉢めぐりできるようなトレイルは見当たらず、この山はあんまり人が来ていないようだ。探索は終了にして北東尾根を下ることにする。北面は歩きやすいがかなり急。途中から尾根を外れ山腹を下る。100mほど高度を落とすと植林帯になってすぐに林道に出ることができた。この林道は昼過ぎに西剣から降りて出合った道と同じはず。この少し先で林道富士線へと下る破線が地図には引かれている。これを見つけて、それが廃道になっていなければラクにスタート地点に戻ることができるのだが…。

しっかりした分岐があってはっきりしたトレイルを見つけることができた。幅広のトラックでこれも古い林道のようだ。富士山は林道がいっぱいだ。無名林道を快適に下っていくと右手にお皿のような窪み。直径30mほどはあるからこれも古い火口だろう。似たような大きさの窪みやお鉢がこのあとも右と左に4ヶ所ほど。火口が列になっている跡ではないかと想像する。

西剣と東剣、その周囲一帯は、3000年から5000年前は活発な火山活動があったということだろう。その頃のこのあたりは、ときに噴煙が上がり、マグマも流れる火山銀座。草木は死に絶えて、いまの宝永山のようなスコリアが広がる毛無界だったにちがいない。
5時、まだ日が高い。無事に林道富士線に出てマイナールートのハイキング終了。それにしても富士山には林道がいっぱい。火山もいっぱいだ。



●以下資料

富士山を知る見るハイキングガイド伊藤フミヒロ

剣丸尾溶岩流は約千年前、河口湖正面の山頂から小御岳を回り込み、富士スバルランドを通過して船津胎内から富士急ハイランド、最後は上暮地白糸まで達した溶岩流である。地元で剣丸尾といえば「ああ、あの辺か…」というようにポピュラーな存在である。ちなみに剣丸尾とは溶岩流が剣の形に似ているから名付けられた。
一方、鷹丸尾溶岩流(937年)は山中湖を誕生させた。
この時期の富士山はハワイ式の噴火を繰り返し、いたるところから溶岩を流出させていた。


地質調査研究報告 , 第 57 巻 , 第 11/12 号 , p. 357 - 376, 2007
トレンチ調査から見た富士火山北‐西山腹におけるスコリア丘の噴火年代と全岩化学組成

8 . 2 東剣スコリア丘
8 . 2 . 1  地形と層序
東 剣 ス コ リ ア 丘 は 北 山 腹 標 高1 , 6 3 5   mに 位 置 す る .
Wc o = 0 . 3,Hc o = 0 . 0 7,Wc r = 0 . 1をもつ.
トレンチは山頂で深度198 cmを掘削した.トレンチ
断面では,上位からY u - 2,大平・桟敷山スコリア(層
厚4 7   cm),Om(層厚9 6   cm),Os(層厚2   cm 以下),
東剣降下火砕堆積物が認められた(第2図の1 4).Y u - 2
は 火 山 灰 土 壌 と 混 じ り , 上 下 の 境 界 が 不 明 瞭 で あ る .
KgはOs直下に46 ‰を確認した.東剣降下火砕堆積物
は,深度1 7 8   cm以深に層厚2 0   cm以上で産出した.Os
から東剣降下火砕堆積物までの間に4 cm厚の褐色火山
灰土壌を挟む.
8 . 2 . 2  層相と岩石
東 剣 降 下 火 砕 堆 積 物 は ,最 大 粒 径1 7   c mの 良 く 発 泡
した赤褐色火山弾及びスコリアからなる.火山弾は斑
晶 に 富 み , 斜 長 石 ( 2 1   v o l . %  , 径  <   2 . 1   m m ),か ん ら
ん 石 ( 2  .  4   v  o  l  .  %  , 径  <   0  .  6   m  m  ) 及 び 単 斜 輝 石 ( 1  .  1
v o l . % ,径  <   1 . 3   m m )を 斑 晶 に 持 つ . 斜 長 石 斑 晶 は 清
澄 な も の ,蜂 の 巣 状 組 織 ,汚 濁 帯 を も つ も の が 混 在 し
て い る . か ん ら ん 石 斑 晶 の 一 部 は 樹 枝 状 組 織 を 持 つ .
単 斜 輝 石 斑 晶 は 微 少 な 斜 長 石 を 包 有 す る こ と が 多 い .
全 岩 組 成 は  S i O2= 5 0 . 5   wt.% , K2O = 0 . 6 1   wt.% , F e O * /
M g O = 1 . 8で あ る


富士火山北‐西山腹に位置する1 8個の噴火年代未詳
スコリア丘でトレンチ調査を実施した.トレンチ断面
で,テフラ層序と火山灰土壌の厚さから,スコリア丘
の 噴 火 年 代 を 見 積 も る と , 1  )  8  ,3 0 0   B . C . か ら6 , 0 0 0
B . C .にサワラ山,二ッ山,永山が,2)5 , 3 0 0   B . C .から
2 , 6 0 0   B . C .に弓射塚,西剣,北西奥庭,丸山,塒塚が,
3)2 , 3 0 0   B . C .から1 , 8 0 0   B . C .に八軒山,西幸助丸,幸
助丸,戸嶺,臼山が,4)1 , 6 0 0   B . C .から1 , 3 0 0   B . C .に
北西弓射塚,東剣,鹿の頭,片蓋山が形成されたこと
が明らかとなった.

地質調査研究報告 2007 年 第 57 巻 第 11/12 号
-360-
比(‰)も示した.屈折率は温度変化型屈折率測定装
置(古澤地質調査所製   MA IOT)で測定した.
スコリア丘本体の噴出物は,鏡下観察を行うとともに
全岩組成を測定した.第  2  表に斑晶量比を示す.全岩組
成の分析は,産業技術総合研究所地質調査総合センター
の蛍光X線分析装置(Philips   社製   PW1404   型)を用い,
第1表 富士火山北‐西山腹に分布する側噴火の一覧.
Table 1
 

Wc o(基底直径,km)= 0 . 5 0,H c o(高さ ,   km)= 0 . 1 4,
Wc r(火口直径,km)= 0 . 0 5などと表記


1 Kenmarubi-2 ????? -
A.D.1033? /
A.D.1010-1180
- 344-11 0.8-4.0 n.d. n.d. ol>cpx 1.9
2 Kenmarubi-1 ????? - A.D.937? - 10 3.2-4.7 n.d. n.d. ol 2.1-2.2
3 Jogan ?? - A.D.864-866 - 30-44 7.9-13.2 n.d. n.d. ol,cpx 2.1
4 Onagare ?? - A.D.690-900 - 17 3.5-4.5? n.d. n.d. ol>cpx>opx 1.8
5 Garan ??? - n.d.  - 17 4.7 n.d. n.d. n.d. n.d.
6 Yakeno-Nishimarubi ??+??? - A.D.650-890 - 68-78 1.8-3.8 n.d. n.d. not detected 2.1
7 Oniwa-Okuniwa-2 ?????? - A.D.620-880 - 38 1.5-7.6 n.d. n.d. ol 1.7-2.0
8 Oniwa-Okuniwa-1 ?????? - A.D.660-860 - 42 0.8-4.3 n.d. n.d. ol,cpx 2.0-2.1
9 Tenjin'yama-Igatonoyama ???+?А?? - A.D.690-960 - 29 8.6-9.3 n.d. n.d. cpx>ol>opx 2.1
10 Hakudairyuo-Koriike ????+?? - A.D.410-770 - 35 8.4 n.d. n.d. ol>cpx>opx 2.1-2.2
11 Ohirayama-Sajikiyama ???+??? - n.d. 1000 B.C. 26 4.7-6.6 n.d. n.d. cpx 1.9
12 Omuroyama ??? - 1390-1120 B.C. - 40 11.1 1.58 0.30 ol,cpx 1.8-1.9
13 Katabutayama ?к? y n.d. 1300 B.C. 42 9.1 0.75 0.16 ol>cpx 1.8
14 Higashiken ?? y n.d. 1500 B.C. 15 6.3 0.30 0.07 ol>cpx 1.8
15 Shikanokashira ??? y n.d. 1500 B.C. 43 9.5 0.50 0.07 ol,cpx 2.1
16 Hokusei-yumiizuka ????? y n.d. 1600 B.C. 36 8.9 n.d. n.d. n.d. n.d.
17 Tsugaoyama ??? y n.d. n.d. 41 10.0 0.48 0.06 n.d. n.d.
18 Hokusei-usuyama ???? y n.d. 1800 B.C. 37 7.2 n.d. n.d. n.d. n.d.
19 Usuyama ?? y n.d. 1800 B.C. 36 6.9 0.30 0.07 ol>cpx 1.8
20 Tomine ?? y n.d. 1900 B.C. 45 3.5-4.9 0.63 0.20 ol>cpx 1.8
21 Kosukemaru ??? y n.d. 2000 B.C. 43 5.5 0.55 0.15 ol>cpx 1.6
22 Nishi-kosukemaru ???? y n.d. 2300 B.C. 47 5.3-6.4 n.d. n.d. ol 1.9
23 Hachiken'yama ??? y n.d. 2300 B.C. 40 6.3 0.43 0.07 ol 1.8
24 Toyazuka ?? y n.d. 2600 B.C. 87 5.1-5.7 0.55 0.15 ol 2.0
25 Maruyama ?? y n.d. 2700 B.C. 1 5.3-5.8 0.55 0.10 ol 2.4
26 Hokusei-okuniwa ???? y n.d. 3200 B.C. 42 4.7-5.2 0.83 0.20 ol 1.8
27 Nishiken ?? y n.d. 4200 B.C. 21 7.0 0.43 0.07 ol 2.2
28 Yomiizuka ??? y n.d. < 5300 B.C. 34 8.5 0.83 0.20 ol,cpx 2.8
29 Inusuzumiyama ???? - 6020-5840 B.C. - 73 8.3 0.20 0.03 ol>cpx>opx 1.9
30 Sawarayama ???? y n.d. 6000 B.C. 45 7.0 0.50 0.14 ol 2.6
31 Futatsuyama ??? y n.d. 7400 B.C. 58 7.5 0