FIRST DESCENT AT MT.TSURUGI
北ア 剣岳 東大谷中俣本谷と右俣スキー滑降
西田 真一(きねずか同人)原 伸也(ビル エバンス同人)
1995-6月11日に大阪あすなろ山岳会の加藤 雅昭氏と共に東大谷左俣を滑降 した際にこれはひょっとして 剣頂上直下に突き上げている中俣本谷も滑降の可能性が あると思えた 長い梅雨時のわずかな晴れ間をねらう長期の山行になると考え ノーテンキの我々は食料を10日間分携行 アルコールなしという前代未聞の山行で覚悟は決まった 6月10日(曇り) 室堂バスターミナル9:30発 室堂乗越からの東大谷の素晴らしい全景がガスで全く見えない 仕方なくガスが晴れるまで昼寝をのんびりする 全く晴れず最初の滑降地点を探すのにひどく時間がかかった 立山川上部は毎度ながらけっこう急に感じる 今年は格段に雪が多く滑りやすい どんな急斜面でも滑れそうな気がしてしまう 皮肉にも下がるにつれて雲は切れてくる 東大谷出合1400m地点でテントを張る15:00 雪が割れて水流が出てるのはこの地点からだ 昨年同様のカラスの歓迎があり 食料を昨年みたいに食べられないように雪の下にかくしておく 6時に早々と眠る 標高滑降差は約1050M 6月11日(晴れ) 6:05発 左俣出合6:30 右俣出合1760M地点6:40着 昨年の同日の左俣滑降と同じく天気に助けられ アイゼン装着は2080M地点7:40 2370M地点から巨大なクレバスと岩間をぬう高度感のある登りとなる 異次元の風景が頭と体を刺激して心地よい ショイナードの滑落防止用のピックのついたストックに大分助けられる ダブルアックスの用意もあったが使うだけの悪い場所はなかった 昼頃からガスが出てくる 音も無く落ちてくる石を交代で監視しながら登る 特に2700M地点の右の岸壁からの落石には要注意だ 2750M地点から最上部へは雪が二手に分かれてどちらにしようか迷う 左のとにかく雪の多い方へ進む ちょうどシシガシラとカニノハサミとのコル2890M地点の早月尾根に13: 50着 縦走路上にある避難小屋をようやく確認 この地点から正月 池の谷側に滑落した魚津岳友会の2名の 事を思いだして黙祷 この谷も将来はその地点から滑降されるであろう 僕にはそんな勇気はないが 頂上までわずか100mの雪稜の登りだが余分な体力を使いたくない 2時半 最初の斜面の下部が見えなく バンジージャンプの5倍ぐらい緊張 雪面に太陽光は充分当たってるはずなのに雪は堅くていやな気分 高所での滑降のポイントはいかに雪が融けてくれるかという点だ 沢は何回もS字状に曲がってくれてリラックスできた これが一直線なら下部の景色が見えすぎて気が硬直してしまう 左俣よりも 雪質は小さい石も混じることなく安定している 2700M地点から下部は落石だけ注意して下る ジャンプターンに慣れて気持ちよい滑降だ クレバスが何本も出てくるが、スキーを外して渡る場所はなかった 中俣をテントまで1500m滑降 これまでの一番高度感のある滑降であった 東大谷出合に17:40着 誰もが失敗するであろうと言ってたし 僕自身は成功率は50%はないだろうと思っていたので 相棒と素直に総ての事 に感謝して喜ぶ ただし酒なしで酔えないのが寂しい 梅雨時のわずかなチャンスだった 6月12日(晴れのち曇り) 東大谷最後の課題の右俣へ テントを6:40発 右俣へ入谷してすぐに巨大な落石 一番滑れそうな先から大量の落石が持続してる ガスはなかなか晴れてくれない 2100m地点でクレバスが多く断念 滑るだけの価値はない 石を避けて滑るのはあまり気分がよくない 天気予報は後日最悪の情報より酒がなく まだ充分1週間分のエサが余ってるが 下山を決意 やっぱり代わりに酒もってくればよかったと後悔 テントを撤収11:15発 馬場島へ下山しようとしたが毛勝谷の手前1200M地点で滑降不能となる 沢の水量も多い事から 今までの経験から検討した結果 室堂まで引き返すのが最善と考え引き返す 余った食料の重さを悔やみながらの登高はつらい 急な登りからガスで迷う 途中落石をのんびり観察してたら運悪くストックに当たる 重荷のおかげで2人共にバテバテ 一口飲んだビールの旨さに腰が動かず 雷鳥荘17:15で宿泊 6月13日 みぞれ混じりの強風を伴う雨のなか下山 室堂乗り越しや他の地点から東大谷の望遠が できなかったのが心残り 体も久しぶりの登山でボロボロ 心だけホカホカ 冷ますのにビールを飲み過ぎてしまった 剣岳周辺はまだスキーに適した未開のルートはかなりあると今回も感じた この時期の立山川から東大谷までの間は全く人の姿を見ること がない静寂の山域である