カテゴリ:2008の記録
富士山スキーパラ
5月16日
川崎さんと富士宮ルートを登る。連休時の4日、6日ほどではないが、相変わらず雪が多い。夏の登り口の階段は雪壁でとりつけない。奥のブル道のところから登りだす。平日なのに20人くらい登山者がいる。昨日のステップがしっかり残っていて雪は硬いがつぼ足で問題なし。先週末は天気が崩れたが、富士山の7合目から上では大雪だったらしい。新雪がたっぷり。昨日滑った人は大当たりだったにちがいない。
7時スタート。地上天気では午後に南風が入るとのことだったが、富士山はべつもののようで北西風が吹き降ろしてくる。3400mまでつぼ足で登ったが北風にあきれて、スキーパラどころではない。撤退を決める。10人くらいはアイゼンをはいて山頂に向かっている。スキーを履いて富士宮上部雪渓に入る。せっかくだからと3400mのブル道をトラバースして御殿場ルートへ入ってみる。シュプールなしの広大な斜面があったので滑る。ガスの先に絶壁が落ちているよう。宝永山の火口壁だった。直前でユーターンして3100の崖の縁沿いのブル道で富士宮雪渓に戻る。ちょうどこれが下部雪渓に乗り換えるブル道だった。
下部雪渓の上部で風が収まったかのように見えたのでスキーパラを開いてあーだコーダとやってみるが無理なものは無理。あきらめて下り始めたところでガスの中から上手なテレマーカーが降りてくる。「折れた矢」の林夫妻だった。
いっしょに下って、6合の小屋脇の沢を下って、20メートルもトラバースしたら車の前に出た。
林選手は新しいキャラバンのキャンピングカーで駐車場で優雅に暮らしていた。次回の海外山スキーのプランを聞いた。
この春は「魔法の山」のわくつさんの顔は見なかったなあ。
5月17日
単独で富士吉田口に行く。こちらも雪が多い。6時15分スタート。トラバース道は除雪し始めていたが、スキーを履いて登山道分岐まで滑りこむ。土曜日とあってにぎやか。河口湖あたりの地上天気予報では南風2,3メートルとなっていたが、やはり富士山は冷たい北風が吹きこんでいる。しっかりしたステップがあって、つぼ足でも行けそうだったが、3400の本八合からアイゼンをつける。直登のステップできつい。1時ぴったりに山頂。6時間45分かかった。風とガスの冴えない頂。雪がちらほら。とてもスキーパラどころではない。夏の下山ルート沢を昨日は誰も滑っていないようだ。岩もなく一枚バーンになっている。山頂から滑り込んで3300まで下る。このまま下ると須走口にいってしまうので、トラバースして吉田大沢に入る。
3100mでスピードパラを開いて、誰かが降りてくるのを待つ。山頂で少しお話した人が来たので、お願いして、広げたパラがずり落ちないように持ってもらう。ガスと風のあい間を見て2回ほどトライするがうまくいかない。1回目は追い風がきてつぶされて一瞬でこける。2回目は10秒ほど飛んだが大きく右に曲がって着地。お願いした人の話では右翼先端が潰れていたらしい。あきらめて畳んで下る。2700でトラバースするトレイルがあったのでついていくがあまり面白くない。ぐさぐさ雪の急斜面でいつまでも表層の雪崩がおさまらない。夏道にでてスキーを脱いでいたらアトラス黒沢さんにあった。白馬のカラースポーツの団体もいた。明日日曜日はガイドツアーが多いらしい。
5月18日
夜中に高城カメがやってきた。朝6時に小屋を出る。予定どおり吉田口5合目パーキングの0645着。約束どおり古川、竹田、小松平カメが待っていて、700にスタートする。山梨警察のパトカーがやってきて「今年は事故が多い、気をつけて」とちらしをもらう。
昨日同様、登山道分岐までスキーで滑り下る。3月並の積雪ではないだろうか。1時間前にスタートしたというカラースポーツの行列が先に見える。直登が得意なようだ。
山頂部のガスと風の流れを見ると今日は特異な日らしい。いつもの西風が収まり、ときどき東から雲が流れるように見える。
ひょっとして?
3400でアトラス黒澤ぐるーぷが下り始めるのにあう。団体はこのあたりからが無難でしょう。ガイドは白馬の林さん。雪が柔らかく、ステップもいくつもあって、結局アイゼンなしで頂上まで登ることができた。5人がほとんど同じタイム、山頂着2時。予定どおり7時間。白馬のカラーガイドツアーは足並みそろっていて、追いつくこともなく、吉田大沢から外れて、なんとか流しの方へ滑っていったようだ。なかなかやるもんだ。
山頂は暖かく日が差して風もあまりない。ゆっくり休んでいる場合ではない。ちゅうさんから借りたシンレッドラインという山飛び用ハーネスをつけて吉田大沢滑りだしへ移動。普段は風ビュービューの吹き抜けのコルがほとんど無風に見える。奇跡。
あわただしくパラを広げて、古川、竹田にパラがずり落ちないようにつまんでもらう。吉田大沢が眼下に落ち込んでいて、その先は一面の雲海、青空も広がっている。
弱い北風のフォローが入っているがときどき止まることがあるようだ。2分に1回ほどほとんど無風のときがある。
高城ビデオ、小松平スチルカメが位置についた。同時に、せいのーで出る。
急斜面だから、あっさり舞い上がって、どんどん雪面が離れて行く。右に左に振ってあまり高く上がらないようにする。上空の風は信用できないから。大沢を滑るスキーヤーが豆粒のよう、こちらを見上げているのがわかる。約束どおり3300当たりで撮影のためにいったん着地することにする。下降操作をして2,3度接地してから山まわりしてランディング。
スキーヤーが降りてきてお話したり写真を撮ってくれる。
古川竹田スキーヤーの撮影がすすんでいるようだ。30分ほど待っている間にフォローの風が強くなってきた。
5人が一旦そろって、2回目のスピードパラにトライするが、出たとたんに潰されて、こける。
みんなで滑り下って、2700の当たりで沢の側壁の風のこない場所を見つけて3度目のフライトにとらい。うまくスタートできたが上昇すると横風に強く流されるので、そこそこにして着地。岩が出てきたがなんとか雪に上の下ろすことができた。
スキーを履いてみんなで吉田大沢をまっすぐトラバース道まで下る。山頂から林道までスキーを脱ぐことなく滑れるというのは今ごろとしては破格の状況ではないでしょうか。駐車場に戻ったのは5時ころ、最終下山者だったに違いない。
●感想
5月連休後半に富士宮口から2回、今週は、富士宮口から1回、富士吉田口から2回、5回目の富士山トライで山頂からスキーパラで下ることができました。山頂付近の風は基本的に西。富士宮雪渓は南面、吉田大沢は北北東なので、普通はいつもクロスウインドかフォローになってしまう。ラッキーな日に当たらないと安心して飛ぶのは難しいようです。
富士山頂からのスキーパラの前に、3月、4月に富士山の寄生火山、二子山山頂と宝永山山頂からスキーパラ、4月に御嶽山山頂、立山雷鳥沢でスキーパラを試み、高所での様子を見ました。
富士山にこだわらずほかの雪山にも適地がたくさんあるので、この飛んだり滑ったりのスキーパラでバックカントリーを楽しむことをおすすめします。新しい山のスポーツです。
「なんでスキーで下れるのにわざわざ小型パラをつけるんですか」という声がありました。ぼくも最初、スキーパラってちょっとヘン、という感じがありました。スキーで下れるのならスキーを楽しみ、パラグライダーで飛べるのならパラグライダーで楽しめばよいのに…、という感じですね。ま、やってみて、その答えは、飛んだり滑ったりすると面白いから、としか言いようがないかな、と思いました。さっきの質問は、クライマーに「なんで崖なんか登るんですか。歩きやすい登山道があるのに」と聞くのと同じようなものかな。
(伊藤フミヒロ)
●ヘルメットカメラの映像
http://jp.youtube.com/watch?v=DgFNSImBs_s
●credit
スキーフライヤー 伊藤フミヒロ(機体オゾンバレット12 ハーネスはシンレッドライン、テレマークスキーはK2スーパースティンクス)
ビデオカメラ 高城亮
スチルカメラ 川崎博 小松原睦
撮影協力 古川一也 竹田真一
取材協力
ファルホークインターナショナル パウダーガイド社
以下小松平睦撮影
gps軌跡。赤線に補足あります |