5.11.1991

霞沢岳・八右衛門沢と霞沢初滑降

霞沢岳・八右衛門沢と霞沢初滑降
原 伸也(ビルエバンス同人)単独
 
 
霞沢岳は上高地の近くにあり、ごく限られた場所からしかその姿を見ることがで
きないことから登る人は極まれな山である。
数年前からこの山の沢の滑降の可能性を探って何回か夏に偵察山行をしてきた
が、なんとか行えそうという淡い気持ちを抱きながらトライしてみた。

八右衛門沢滑降
5月11日
上高地を8時30分発。
八右衛門沢下部1670m地点に大堰堤があり、そこから雪が続きアイゼンをつ
けて、少しクラスト気味の急斜面を落石に注意して登る。
静かな山頂に12時到着。
ここはいつも人がいなくて穂高の展望よくての素晴らしい場所だ。
13時八右衛門沢のの最上部2600mから滑降開始。滑り出しは急だが意外と
雪面の状態が良くて滑りやすい。ジャンプウウェーデルンが気持ちよく決まる。
中間部は両側ともかなり狭く、両岩壁からの小石が散乱して慎重に下る。
数分間小雪がぱらつく。
カモシカの姿も見えて楽しい。
三本槍沢との合流地点の手前に巨岩が横たわっていて雪が少しとぎれる。
巨大な堰堤まで石の少ない場所を選びながら左側を主に滑る。
滑降標高差930m。
上高地に14時10分着。
連休からその後の1週間ぐらいが 滑降に適した時期と思う。

霞沢初滑降
5月16日
登路は先週と同じ八右衛門沢。
車の中で寝過ぎて10時発となってしまった。
雪もだいぶ溶けて数カ所水流が現れていた。
頂上には登らず、先週の滑降地点と同じ場所から霞沢を滑降することにした。
大雪庇が霞沢側に張り出している。
重いザックをエンヤコラと落下させたあと細い木にザイルをつけて雪を崩しなが
ら雪庇の下でスキーをつける。
14時。
滑り始めは特に急な斜面のため、非常に緊張。
ジャンプターンでチェックをしながら下る。
ザックは100mほど下にあり、再び転ばせてそのあとを滑る。
ともかく変な場所に停止しなかったことに感謝。
。
2000m地点で部分的に雪がとぎれ、左側の雪面まで草地を5mほどスキーを
つけたままソロリと歩く。
この周辺はサルの集団やカモシカが多い。
しかもあまり人をおそれていないようすだった。
50匹のサルは霞沢の下部から夏を目指して大移動中だった。
よく見てると沢を横断するときに必ず 両岸には見張りが立っていて、なかなか
の組織ぶりに驚く。デコボコの雪に苦労しながら下ると水流が出てきて、160
0m地点でスキー終了。
ッツエルト泊。

5月17日
5時発。
小雨が降る中の沢のゴルジュ通過は難しく、300mの高巻きが2回もあった。
11時に沢渡着。
上高地行きのバスを待ってる時に女性のバスガイドがどこ滑ってきたの?って不
思議な顔して
聞いてきた。
どうやらかなりこの北アルプスについて知ってるみたいで、「霞沢滑ったなんて
記録聞いたことないわ」と驚いていた。そのあとのビールは最高に旨かった。


写真説明
西穂高から見る霞沢岳 中央に見えるのが霞沢