5.03.1991

DESCENT AT ANAGE,MT.KASA

西田 真一 (きねずか同人) 原 伸也 (ビル エバンス同人)
ANAGE PICT
 
穴毛谷周辺の沢には まだ紹介されてない幾つかの滑降コースがあり
槍見温泉の無料混浴露天風呂をベースに 日帰りで4日間
のスキー滑降をショートスキーで楽しむ。

5月3日(快晴)穴毛谷一の沢滑降
穴毛谷としては 新穂高温泉から一番近いことや
積雪期の記録を見た事がない 穴毛谷一の沢へ向かう。
一の沢出合の1341M地点で2パーティーがテントを張っていた。
1260M地点から雪を踏みしめて登る。
単調な登りでも 周囲の岩壁の風景が飽きさせない。
1840M地点の大きな左側の支流は広サコ尾根に伸びる。
地図上ではかなりの急斜面に見えるが 下から見上げると大した斜度でもなく
雪庇もなく 笠岳主稜線縦走路の残雪期における
エスケープルートとして 又はクリヤの頭方面
からの帰路における最短スキー滑降ルートとしても使用できそうだ。
本流は右側へ大きく屈曲し 傾斜を増してクリヤノ頭へ直上してる。
無雪期にはここから 15Mの滝を筆頭に大小6つの滝があるらしいが
岩壁から落ちた雪で全て覆われてるためか 水音はない。
途中2150M地点から広サコ尾根側へ回り込み クリヤ谷の縦走路へ合流。
春日井山岳会のスノーボードなどを持つ3人パーティーと出会い
この 山域で出会う人は希だ。
山談義に花が咲き 様々な情報が得られた。
クリヤノ頭(2440M)に14時着。
時間に余裕があり そこから笠谷右俣A沢へ 約250M程滑降。
穴毛谷と違いデブリがなくて 滑り易い。
右俣B沢より格段に樹木の数が少なく また広大な明るい斜面だった。
小尾根を乗り越して クリヤノ頭に引き返す。
頂には雪がなく 10M下降してからスキーを着けて滑降。
最初はかなりの急斜面で 慎重に下ると 後は部分的にシュルントがあるだけ
の 第一尾根と広サコ尾根に挟まれた谷筋の滑降。
そのまま 穴毛谷本流に合流して終了。滑降標高差1180M。

5月4日(快晴)抜戸岳南尾根・岩小舎沢滑降
巨大なデブリの目立つ蒲田川左俣谷から岩小舎沢を登りつめる。
上部にカモシカを見かけ 
キノコ雪をいくつかつけた2421M峰東南壁が右手に大きく見える
南尾根のコル8に13時着。
穴毛谷側を見ると スッパリと切れ落ちている。
3年前の難しい滑りだった穴毛谷四の沢左俣Aルンゼが大きく見えてなつかし
い。
標高は低いが 高度感がすごい。
デブリや落石なども少なく 広大な斜面で気持ち良く滑れる。
抜戸岳南尾根の沢の中では 最も容易で明るい雰囲気の
気持ち良い沢であり 穴毛谷の概要をつかむのにも好適なルートと思う。

5月5日(雨)
小雨が切れ 風呂に入ってばかりもしていられない。
穴毛谷本谷に向かう。
堰堤の多さが いささか気になるのは 登山者のワガママであろうか?。
三の沢の出合から 雨が降り出し 霧が深くなる。
毎回の快晴のせいで いつもの癖のツェルト携帯をこの時ばかりは
忘れてしまった。
雨具を着たまま 3時間立ち尽くし
たがついに やむことなく そのまま滑降して下山。

5月6日(晴れ)穴毛谷無名沢滑降
初日の 一の沢から見た抜戸岳南尾根から穴毛谷側にある白い沢筋が印象に残り
地図で確認すると2248M地点から滑れそうだ。
三の沢の出合から南尾根側への無名沢を登る。
昨日の雨と寒さにより 斜面が氷化し 久しぶりのアイゼン装着。
うっすらと新雪が積もり その下はガチガチの氷だ。
どうやら 雨の後に新雪が降ったようだ。
中間部の巨岩で休憩中 直径30CM大の雪塊が頭に直撃しそうになったが
運良く事前に発見して 無事。
直上すれば穴毛槍手前のコル6につくが、ある程度登れて滑れそうなので
左側の狭くてシュルントの多い不安定な凍った斜面を
ルートを探しながら無理矢理登る。

三の沢上部の雪崩が何度となくこだまする。
地図上の2248M地点に13時30分着。
南尾根上の他の滑降適地を偵察。

P7(2248M)の手前から
2日前に滑った岩小舎沢側にかすかな可能性を見つける。
しかし最初の滑り出しは50度はある急斜面のために 将来の課題とし
登ってきたルートを滑降することにした。
好天による雪の溶けるのを待つ間に 断崖絶壁の景色を充分に堪能する。

なだらかな丘状の斜面をゆっくりと滑った後は わずか100Mと短いが
大きくていやなシュルントが連続する 急なバーンだ。
足下が崩れればそのまま落ちるしかない。
微妙なバランスを要求され油汗をかきながらなんとか緩い斜面にたどりつく。
今年の大雪の年で この少ない雪の付着であることを考えると
普段の年の滑降は かなり困難な部分と思われた。
後は白い広大な斜面を 直線的なウェーデルンで滑走。

日帰りの行程で 素晴らしい絶景とかなりの急斜面を楽しめ
さまざまな可能性を秘めた山域は 日本ではこの笠岳周辺
が一番と思う。



(付記)
上記の 各滑降コースについては 今まで雑誌や本では 発表されてない。
1)岩小舎沢については 飛騨山岳会の瀬木氏らが滑ってるが
発表されてない。
2)1ノ沢滑降は積雪期における 下降路として使用されてる。
スキーの使用は 多分されてるであろうと想像するが
クリヤノ頭からの本流は滑られてないと思う。
3)穴毛谷の無名沢は 沢の中間部から滑られてるかもしれないが
今年度の豊富な雪でも 尾根直下には難しいシュルントだらけであった事から
初滑降と思われる。


参考文献
日本登山大系・「槍ケ岳・穂高岳」
笠岳の岩場と沢 飛騨山岳会