6.18.2012

高鉢山と溶岩樹形群


高鉢山と溶岩樹形群
2012年6月16日
member Taro Itokisya記
高鉢神社の社の跡

天狗のお庭

小雨の日曜日、西の方から天気がよくなっているよう。昼に出かける。
近頃マイブームの富士山南麓、今日のプランは高鉢山登頂と東臼塚の南にある日本最大の溶岩樹形群の見学。
富士山スカイラインの5合目線にある高鉢山の駐車場へ着いたのが2時ころ。日が長いので木にしない。高鉢駐車場は2つあって上の方は小さいがお山を望むことができる。すっかり天気がよくなって残雪と新緑の富士南面がよく見える。
高鉢山は寄生火山だ。西臼塚から見るとお碗型のきれいな山容が見えるのだが、地図上では大きな尾根の突端のよう。

高鉢山は寄生火山というだけではなくてけっこうヒト臭い山のようだ。富士山信仰の修験者(山伏)らがこのあたりを巡って修行をしたらしい。山頂には神社があって、このあたり富士太郎坊という天狗も徘徊していたとか。山人はもちろん修験者たちもこの天狗を畏れ敬っていたらしい。よく絵などでみる天狗は山伏のような格好をしているが、けして山伏の親分というわけではないらしい。天狗は空を翔る神でもあり、ヒトに悪さをする妖怪でもあったという。ということは、いい天狗様と悪い天狗がいたということだろうか。富士山には天狗にまつわる面白い話しがいくつもある。今でも地元の人や信心深いあるいは迷信深い人は、天狗を畏れて高鉢山には近づかないという話しを聞いたが、本当だろうか。

あてずっぽうで、スカイラインを横断して森の中に入る。細いトレイルがあって、園地かと錯覚するようなきれいな混交林が広がっている。ササなどの下生えがなくて歩きやすい。樹間もあいていて午後の日が差し込んでいる。ツツジの花園や一面がバイケイソウの平など、森あり草原あり湿原ありの山上庭園になっている。ふらふら歩いているうちに方向が少しずれてしまったようだ。沢を渡り倒木帯を越えて1649m高鉢ピークを目ざす。
振り返ると富士山がよく見える、明るいが極端に足場の悪い広場に出る。広場というよりも倒木の墓場というのがふさわしいかもしれない。天狗の話しにこじつければここが天狗のお庭ということになりそうだ。
バイケイソウだとおもう、上高地みたいだ

正面にこんもりとした高みが現れる。高鉢山だろう。天狗のお庭から100歩ほど上がると風通しのよい疎林に出る。ここが山頂だった。すぐに三角点を発見。3等のようだ。展望はあまりない。カルデラのようなはっきりした火山地形は見当たらないので寄生火山と言われてもわからない。が、富士山の滑り台のようなきれいな勾配を無視するかのように点在する凸や凹、あるいは平はほとんど寄生火山のなせる技だという。
高鉢山山頂ご神木、だとおもう

ブナかカツラか判然としないが空洞をもつ巨木があって天高くこずえを伸ばしている。これがご神木か。根元に標石のようなものが2本倒れている。苔むした丸石もふたつ。となりに看板がこれも倒れていて文字や絵は消滅していてなにも読み取ることはできない。花崗岩の標石をよく見ると高鉢神社と彫られている。丸石は石仏の一部かなにかかと確かめてみるがただの石のよう。ここらあたりに祠があったのだろうがいつの間にかこれらの石だけが残されたということだろう。ものの本には、ここにお堂もあって宝物が収められていたという記事もあったのだが。
富士太郎坊の影でもないかとあたりを見渡すが、木漏れ日が射しそよ風が吹き抜ける山上には天狗様や魔物の気配はない。
尾根上に細いトレイルが続いているようなので、帰路はそれを辿る。緩い登りを倒木を避けるように右左しながら進むと車の音が聞こえてきた。すぐに「富士公園太郎坊線9.4キロポスト」の標識のあるスカイラインに出ることができた。2時間もかからないハイキング。高鉢山を往復するだけならこの尾根ルートを選ぶのがよいだろう。
溶岩樹形の原っぱ

溶岩樹形の森

さてまだ4時。夏至に近いからお日様も高い。第2ステージは東臼塚の南にある溶岩樹形群の探訪である。
この溶岩樹形の森は、最近になって知られることになったらしい。静岡県地学会のホームページに出ている。

「日本一の溶岩樹型密集地域。東臼塚南溶岩流中の溶岩樹型群」とあり、写真とわかりやすい解説、おまけに所在を示す地図付きで親切に紹介されている。これは見てみたい。溶岩樹形は、生きている立木が灼熱の溶岩流に包まれて燃え尽きたもの。溶岩には生前の樹木の姿が穴ぼこ状態で残されるわけで、樹木の鋳物のようなものとも言えそうだ。これが密集したところがあるのなら、古代の森の様子を化石を見るように想像できる、のではないか。
富士山スカイラインを下り、水ヶ塚でエバーグリーンラインに入る。富士急の遊園地や岳麓の村須山に下ることができる500円の有料道路。地図よれば、溶岩樹形の森へは、西臼塚駐車場、あるいはイエティスキー場から辿ることができそうだが、たまたま樹形の森は佐久間東幹線という送電線の下にあるという。それなら送電線の切り開きを行くのがてっとり早いのではないか。
地図を見てエバーグリーンラインを須山に向かって下がっていく。頭上を送電線が横切るところがスタート地点だ。なんなく送電線を発見。道脇に車を置くスペースもある。早速スタート。
送電線の下には必ず巡視用の仕事道がつけられている。経路ともいうらしいが、これを辿る。道脇から親切にも階段が作られていて、ひと登りすると広々とした切り開きに出ることができた。前にも後ろをにも送電鉄塔がえんえんと続いている。新鮮は風景。広い切り開きの真ん中に細い仕事道があってこれも行く先えんえんと続いている。
起伏はあるが歩きやすいこの仕事道を進む。両脇には春の草花がほほえんでいる。目的地は1.5kmほど先。
なぜか髪の毛が逆立つようなジリジリという音が時おり聞こえてくるが、動物にもこの道は便利なのだろう。ときどきニホンジカを見る。あたりをきょろきょろしながら歩いていくが、いっこうに溶岩樹形らしいものは見えない。切り開きの左右は造林帯でヒノキの真っ暗な森になっている。景色が変わったな、と思ったのはヒノキの黒森が原生の混交林になったからだろう。足もとの切り開きにもごつごつとした溶岩が露顕するようになる。
予定通り1.5km地点に達するといきなり右に左に溶岩の穴ぼこが出現。直径1m以上のものから20センチくらまいで、大、小さまざま。深さは1mから2mとこれもさまざま。斜めの穴があったり、横倒しのまま埋もれたらしい穴もある。穴の山側にいすの背もたれのように盾状の溶岩がくっついているものも。まさに溶岩樹形の原っぱだ。
山側の森の中にもたくさんあると聞いていたので、踏み跡を辿ってみる。薄暗い雑木林の中に観察路があってここも左右にたくさんのさまざまな形状の溶岩樹形が口を開けている。森の中のものは苔むしたものが多い。
この溶岩流は、1kmほど北にある東臼塚から1200年ほど前に流れ出したものだという。当時は巨木の森だったことがわかる。樹種は不明だがこのあたりは深い森林帯だったのだろう。静岡地学会によればこの溶岩流の中に500以上の溶岩樹形があるという。
それにしてもなんでこんなにここだけに密集しているのか。1200年前に流れ出した溶岩は、長さ1km弱、幅50mほどのもの、そのひと筋だけだったようだ。この溶岩流に侵された森の部分だけが樹形を残したということ。被害を受けなかったほかの森はその後も長らえたのだろう。
樹形穴が残されているのは原生の森の中、おとなりのヒノキの造林エリアではなかったのは、比較的新しいこの溶岩流の上に植林するのが難しかったからなのではなか、と往路を戻りながら想像する自分であった。観察の時間も含めて往復2時間少しの火山地形観察ツアーだった。
南口須山浅間

車に戻ってまだ6時。須山浅間神社を訪ねる。富士吉田の浅間神社が北口、須走が東口、富士宮が表口なら、須山の浅間神社は南口と言われている。富士遥拝登山のための南の登り口という意味である。とはいえ旧登山道はとっくに消滅している。ここから富士登山をスタートしようにも道がない。それでも1000年も前から登られたという須山口登山道を再興しようという運動が長い間続けられてきた。そして地元の熱い夢が現実のものとなる日がやってきた。平成9年、須山口登山歩道は復興されたのだった。いまや神社から富士山頂までのルートは国土地理院の地形図にも破線が引かれている。
神社は本殿が大改修中だった。完成まで2年ほどかかるという。須山には信仰の厚い人が多いのだろう。莫大な浄財が注がれ、ヒノキの香りも新たな立派な社が生まれつつある。鳥居の周辺には何本もの幟がたてられていて、そこには「歓迎、富士山須山口登山歩道」と大書されていた。須山には富士登山への熱い想いをもつ人が多いのだろう。

富士山を知る見るハイキングガイド伊藤フミヒロ





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東臼塚南溶岩流中の溶岩樹型群
~日本一の溶岩樹型密集地域~
小川賢之輔が1986年に公にした。東西200mの高圧線の側道、その側道から主に北に伸びる「けもの道」600mを中心に幅約50mの狭い地域に500を越えるおびただしい数の溶岩樹型が存在する。

東臼塚の山腹最下部付近から南に流下した東臼塚南溶岩流中にある。新富士火山新期溶岩で、直下の炭化物の年代測定等により、西暦800年代後半に噴火したと考えられる。

溶岩樹型の単一樹型は4つに分けられる。

竪樹型(直立樹型)
斜樹型
横臥樹型
管状樹型
これら全てのタイプがあり、立派な不動岩タイプ(側面が高まりをつくる竪樹型を不動明王の光背にたとえ不動岩タイプと呼ぶ)が多数存在する。(齋藤朗三)


富士山は側火山の数が際だって多く、その数は70以上といわれています。
富士山の側火山の多くは、お椀を伏せたような形をしています。これは、噴火の際に火口の周辺にスコリア(気泡をたくさん含む暗色の火山れき)などの火砕物が積もってできた山で、火砕丘(スコリア丘)と呼ばれます。このほか、はっきりした丘にならずに帯状の盛り上がりや溝のような窪みの地形としてとして認められるもの、火口だけが列をなしているものなど、さまざまな形の側火山があります。