7.30.2012

下り山火口列 1



2012年7月27日金曜日
member Taro Itokisya記
いわくありげな黒塗りの国産高級車

赤色立体地図をかぶせる。見逃してしまったけど029の西100mに火口があったようだ

暑いので太郎を山へ。富士北西火山群の中でごく最近に発見された下り山火口列というのがある。航空レーザ計測で解析されて見つかったクレーターだ。よしそれを見にいこう。
下り山火山もまた青木が原樹海を作った溶岩流のひとつだという。「下り山火口の頂部には直径約100m,深さ約40m の火口」があるというから、近くの石塚火口と同じくらいのスケールのものらしい。
地図には、鳴沢富士宮線(開拓道路)からアプローチできそうな破線がある。
昼は過ぎてもう2時近く。開拓道路を走り、このあたりか、と車を停める。道脇をふらふらするとチェーンで規制された林道入り口を発見。これがその破線のようだ。草が生え倒木もあるがジムニーなら走れそうな道。樹海の中を緩く下っていて本栖湖へ続いているようだ。樹海の中のアプローチがたいへんかと想像していたがこれなら楽勝だ。
きれいな無名林道、ヒノキの造林エリアあり

2時過ぎスタート。シカの森なので太郎はコーフン気味。ヒノキの植林エリアもあるがほとんど原生の樹海のようだ。しばらく下って行くと異様な光景が現われる。黒い乗用車が道端に突っ込んでいる。窓ガラスが全部割れていてホコリまみれ。レグザスのようだ。おそるおそるのぞきこんでみるが中は空っぽ。いわくありそう、、、。
さらにしばらく下って、このあたり、とGPSにマークしてあった屈曲点に出る。ここから火口に向かうのがいちばん近道のようだ。雑木の林を抜けると溶岩流の凸凹地形に出くわす。その先にこんもりとした尾根があって東から西へと延びている。これが下り山火口列のようだ。シラビソの幼木と大木が生える尾根に上がってみる。尾根筋には細いトレイルがあってケモノミチにも見えるが、どうかわからない。赤布の類はない。尾根上には火口のようなものはなく、右手、左手をのぞいて見るがはっきりした火口地形は見つけられない。
下り山火口列の長峰

あちこちに立派な溶岩樹形

尾根から下って樹海の中に戻る。もときた林道へ戻ろうとGPSを見るが、示す矢印が自分の方向感覚とは違っているので驚く。GPSどおり辿る。ところどころに立派な溶岩樹形があってかつてはこのあたり巨木の森だったことがわかる。霧が出てきた樹海を右へ左へと進む。浅い沢地形をいくつか越えた先で黒い車が亡霊のように現われた。ヤブに頭を突っ込んで傾いているレグザス。

このあたり標高1000mほどだが歩くと暑い。今日の探索は終わりにして林道を戻る。航空レーザ計測のデータから作られた赤色立体地図にははっきりとした火口が見える。どうやら尾根上をもう少し下ったところにあるようだ。マークした地点が100mほどずれていたかもしれない。火口の探検は秋、涼しくなってからの課題としよう。
中島牧場に移動、太郎もOKのロッジで過ごす。

つづき 下り山火口列2
https://itokisya.blogspot.com/2012/08/blog-post_6.html

●参考

富士火山(2007)荒牧重雄,藤井敏嗣,中田節也,
宮地直道編集,山梨県環境科学研究所,p.349-363
航空レーザ計測にもとづく青木ヶ原溶岩の微地形解析
青木ヶ原溶岩は,西暦864
~866年(貞観6-7年),長尾山付近での噴火により流下
した玄武岩質溶岩流である.

青木ヶ原溶岩を流出させた火口に
ついては,長尾山だけでなく,その南側の氷穴火口列,大
室山西麓の石塚火口からも噴出したことが明らかにされた
(小山,1998b;小幡・海野,1999).また,鈴木・他(2001)
は,根原付近に到達した青木ヶ原溶岩の分布や地形から,
大室山東麓に神座風穴火口が存在すると考えた.


新たな給源火口の発見
航空レーザ計測の成果を表現した赤色立体地図の判読と
それに基づくと現地調査より,石塚火口列の西北西延長上
に連続する噴火割れ目と,その噴火割れ目の北西端にある
最大比高が約25m の火砕丘を新たに確認した.この火砕
丘を「下り山火口」,この火砕丘の基底部から流下する溶
岩流を「下り山溶岩流」と呼ぶ(図15ab).下り山火口の
頂部には直径約100m,深さ約40m の火口があり,火口
底と火口縁では赤色スパターが確認された.火口の北東側
では少量の降下スコリアが確認されたものの,その分布範
囲等の詳細は不明である.
下り山火口-石塚火口間は直線状にのびる割れ目状の地
形が認められるが,周辺にはスパター等の火口近傍堆積物
は確認されなかった.この割れ目の伸張方向は地形の最大
傾斜方向と異なること,割れ目が古い溶岩(大室溶岩)の
凹凸を乗り越えて伸びていることから,この割れ目は,貞
観噴火時の火口列形成に伴う噴火割れ目の一部と考えられる。


下り山火口以外で貞観噴火で活動した火口や火砕丘の特
徴は以下のとおりである.
石塚火口は,最大比高が約30m あり,頂部には直径約
50m 深さ約10m のすり鉢状の火口がある.この火砕丘起
源の降下スコリアは確認できなかった.長尾山は,最大比
高は約120m であり,長径240m,短径170m,深さ約40
m の北西方にやや開いた馬蹄形状の火口がある.この火
砕丘からは,降下スコリア(長尾山スコリア:宮地,1988)
と溶岩流の噴出が確認された.
氷穴火口列は,長尾山南東に位置する噴火割れ目であり,
従来は現地調査より6箇所の火口が存在すると推定されて
いた(津屋,1968).今回,赤色立体地図を解析し現地調査
を行った結果,最大で直径50m,深さ30m のすり鉢状の
火口が北西―南東方向に少なくとも20箇所以上存在する
ことが確認された.また,氷穴火口列の東側には噴火割れ
目起源と見られる小規模なスパター堆積物が,また北側に
は溶岩流が確認された(図16).

「富士山を知る見るハイキングガイド」伊藤フミヒロ著